「じゃあサタンが空港にやってきたのお話をしてあげよう」
「……ありがとう」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、
それは飛行機で独り寂しく座っている女性にふわりと乗りました。
サタンは女性に云いました。
『せっかくの海外旅行なのに随分浮かない顔をしているね』
すると女性は答えました。
『実はこれから久しぶりに恋人に逢いに行くの』
サタンは云いました。
『だったらもっと嬉しそうな顔をしていてもよさそうな気がするよ?』
女性は云いました。
『……彼と最後に逢ったのはもう1年も前。彼は商社の営業マンだったんだけど、何故か突然転職して海外に行っちゃったの』
サタンは云いました。
『どんな仕事してるの?』
女性は云いました。
『詳しくは教えてくれなくて……。私も付いて行くって言ったんだけど、危険な仕事だから来るなって』
サタンは云いました。
『それで我慢できなくなって逢いに行こうとしてるんだ』
女性は云いました。
『でも逢ってくれるかな』
サタンは云いました。
『じゃあ私からのプレゼント。これがあればきっと逢えるよ』
女性は云いました。
『ホント!?』
サタンは云いました。
『さ、そろそろ空港に着くよ』
女性は云いました。
『それにしても、こんなパイナップルって珍しいね』
……おしまい」
「あ、ほんとに逢えた!」
「なんでキミがこんなところに? ここは危ないから来ちゃダメだって……いや、それよりもその手に持っているのを床に置いて」
「そんなにパイナップル好きだった?」
「え? いや確かにそうだけど、じゃない、なんでそんな事を知ってるの?」
「あ、これはたまたまさっきもらったの。それよりさ、なんでそんな遠くに居るの? 望遠鏡使うくらいならこっち来てよー!」
「他には何も持ってないのか? ポケットとかは?」
「ううん、これだけだよ。あのね、あたし──」
パン!
…
……
「どうしてこんな。ボクが外人傭兵部隊としてクリスマス警備をしてるのを知っていたはずなのに」
「どうして、手榴弾なんて持ってるんだ……」
「これはね、望遠鏡じゃなくて、ドラグノフSVDKっていう狙撃銃なんだよ」
「空港に爆弾を所持している人が居るからって来てみたら……まさかキミだなんて」
「もう、もう……」
パン!
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
でも──
「せっかく逢えたのにお祝いのクラッカーを鳴らすのがちょっと早かったみたいだね」
- 了 -
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