「じゃあサタンが美術館にやってきたのお話をしてあげよう」
「……ありがとう」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、
それは美術館で独り寂しく立ち止まっている女性にふわりと乗りました。
サタンは女性に云いました。
『宗教画はいいね。私も素敵に描いてくれるし。これは……キリストの変容かい?』
すると女性は答えました。
『ええ、ラファエロの筆使いはやっぱり綺麗。寂しい気持ちが和らぐの』
サタンは云いました。
『なるほど、本当なら君は彼と一緒に過しているはずだったもんね。それが子連れのバツイチの友達に寝取られるとは思わなかった?』
女性は云いました。
『……確かに悲しい出来事だったけど、どっちも私にとって大事な人だもの。幸せになってくれればいいの。時間が経てば私は平気』
サタンは云いました。
『そんな君はとても良い子だね。ではせめて私からのプレゼントを受け取ってくれるかい?』
女性は云いました。
『別にいいわ。今はこうして素敵な絵画に囲まれているだけで幸せだもの』
サタンは云いました。
『美しい絵画に囲まれる至福の時間……その時間をもっと身近に感じてみたくはないかい?』
女性は云いました。
『ドラクロアの絵画でもプレゼントしてくれるの?』
サタンは云いました。
『似たようなものかな』
女性は云いました。
『ホントかしら?』
サタンは云いました。
『外に出てごらん。私のプレゼントが届くから』
女性は云いました。
『期待しないで待っておくわ……あ、閉館のアナウンス』
……おしまい」
外に出て携帯電話の携帯を入れる。
すると留守番電話が一件。
「何かしら?」
留守電を再生すると男の声でメッセージが入っています。
「警察です。あなたの知人女性が自分のお子さんの首を噛み切って自首してきています。その連れの男性も自宅で首を切り落とされが姿で
亡くなっているのが発見されました。あなたは共通の知人らしいので、ちょっと事情をお聞かせ願えませんか?」
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
携帯電話を取り落とし膝から崩れ落ちる──
「ゴヤ『我が子を食らうサトゥルヌス』に、ギュスターヴ・モロー『庭園のサロメ』というわけね……」
- 了 -
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