「じゃあサタンが雪山にやってきたのお話をしてあげよう」
「……ありがとう」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、
それは雪山で独り寂しくうずくまっている女性にふわりと乗りました」
サタンは女性に云いました。
『寒くはないかい』
すると女性は答えました。
『もう寒さを感じる事もなくなっちゃった』
女性は云いました。
『雪山の洞穴は寒いからね。帽子くらいじゃどうにもならないか』
女性は云いました。
『ううん。ありがと。まさかクリスマスプレゼントが貰えるとは思わなかったもの』
サタンは云いました。
『いやいや、プレゼントはこれだけじゃないさ。ところで、この洞穴からは出て行かないのかい?』
女性は云いました。
『どうも吹雪で入口が埋まっちゃったみたいなんだ。ボタ雪だったみたいですっかり凍っちゃって私じゃ出られない。あ、でも貴方も出られないんじゃない?』
サタンは云いました。
『しばらく吹雪いちゃうらしいね。この吹雪が収まって天気が良くなれば出られるとは思うよ』
女性は云いました。
『……じゃあ私はダメね。もうそこまで体力が持たないもの』
サタンは云いました。
『じゃあプレゼント』
女性は云いました。
『赤い、キャンドル……?』
サタンは云いました。
『うん、マッチもあるよ。でも体を温めるのにはちょっと足りないかな』
女性は云いました。
『ううん、嬉しい──嬉しいわ。私ね、どうやら友達に見捨てられちゃったみたいなんだ。だからプレゼント貰えるだけでホント嬉しいんだ』
……おしまい」
「ああ、暗い洞穴が明るく照らされていくわ。案外悪くないクリスマスだったかな」
女性はマッチをすると、おとぎ話のように願いを込めて眺めました。マッチの緩やかな灯火が洞壁を赤く染めていきます。
まるでホントのパーティのようです。
「メリークリスマス!」
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
マッチの炎がキャンドルに灯され、キャンドルの芯を炎が伝う。炎は瞬く間にキャンドルに達し──
その日、極々少数の人は洞穴から赤い爆炎が吹き上げるのを見ていた。それはまるでクリスマスケーキに飾られるキャンドルのようだったという。
- 了 -
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