魂魄堂 書庫

- サタンが駅前にやってきた -


「じゃあサタンが駅前にやってきたのお話をしてあげよう」
「ありがとうございます」

「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。 サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、それは駅前で一人寂しく募金活動をしていた女子中学生ににふわりと乗りました。
サタンは女子中学生に云いました。
『折角良い事してるのに元気ないんだね』
すると女子中学生は答えました。
『どうしてクリスマスに人は人に優しくないんだろ…。夕食に使うお金の数パーセントで病に苦しむ途上国の子供が何人も救われるのに』
サタンは云いました。
『それは悲しいね。でも、それだけかな? 本当なら君だって行き交う恋人達に埋もれていたんじゃないのかな』
女子中学生は云いました。
『わ、私は、そんなっ』
サタンは云いました。
『隠さなくても良いんだよ。君は10日前に半年付き合った彼に振られているね? そしてその彼は新しい彼女と一緒で、食事してホテルへ行って…』
女子中学生は云いました。
『止めてください! 私たちはまだ中学生なんですよ』
サタンは云いました。
『それは失礼しました。では半月ほど前に可愛らしい上下の下着を買っていた事は忘れておきましょう』
女子中学生は云いました。
『…もう良いんです』
サタンは云いました。
『それにこうした募金がどう使われているか知ってるかい? 必ずしも全てが難民に届けられるとは限らないんだよ。募金団体の活動資金になったり経費に使い込まれたりするんだ』
女子中学生は云いました。
『そういう噂は聞いた事ありますけど…でも、私は他に方法が解りません』
サタンは云いました。
『だから彼と別れた傷も癒さずにこうして冬空の駅前に立って居るんだ。道行くカップルは君の事なんて見向きもしないのに』
女子中学生は云いました。
『だって、仕方ないじゃない』
サタンは云いました。
『もっと確実に喜んで貰えるものを送ればいいんだよ』
そして女子中学生は駅で立っているのを止めてきらびやかな街中へと歩き始めました。 とても楽しそうな表情を浮かべて。
……おしまい」

「これでいいの?」
「君は本当に恵まれない子供達を助けたいんだね」

そして女子中学生が持ってきた白い袋を満足げに眺めました。中を開くとそこには、パンと魚と肉とケーキと、加工されたばかりの肉と、 ワインのような赤い朱い紅い液体が大量に入っています。
「頑張ったね。白い袋に沢山のプレゼント。そして紅く染まった今の君の姿はまるでサンタクロース」
「うん!」

サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が 平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。独り寂しい時間を過ごしている人の 望みを叶えてあげる」

「ほら、彼処に居るのは君を振った彼じゃないかな? どうせなら彼にもボランティアの手伝いをしてもらえばいいんだよ」
左手に提げた袋と右手に持ったケーキを切り分けるには十分すぎるナイフ。
女子中学生は彼の背後に立つとゆっくりと振り上げ───

- 了 -

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