魂魄堂 書庫

- サタンが会社にやってきた -


「じゃあサタンが会社にやってきたのお話をしてあげよう」
「ありがとう」

「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。 サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、それは会社で一人寂しく残業している女性ににふわりと 乗りました。
サタンは女性に云いました。
『やあ、元気がないね』
すると女性は答えました。
『せっかくのクリスマスなのに一人で残業だもん。いくら今彼氏居ないからって私だけ 残すなんて上司も酷いと思わない?』
サタンは云いました。
『ふふ、それはつらいね。でも、その上司もお子さんと一緒にサンタクロースを 待ってるんだろうしね』
女性は云いました。
『ふふ、何言ってるの。今時そんな純真な子供が居るわけないじゃない。上司だって 素直に家に帰ってるかどうか…』
サタンは云いました。
『おやおや、それはまた天邪鬼な。サンタクロースは信じている人にだけ姿を見せて くれるんだよ。それは子供も大人も関係ないんだ』
女性は云いました。
『そんなわけないじゃない…。じゃあ私がこうして独りでいるのもサンタを信じていないから?  恋人がいて今頃楽しく過ごしている人たちはみんなサンタを信じているの? じゃあどうして 今日一緒にクリスマスを過ごそうって云ってくれた人は一人で帰っちゃうの!』
サタンは云いました。
『それはさっき云ってた上司の事だね。でも彼だってきっと貴女と一緒に居たかったはずだよ。 彼の事情だってわかってるはずだよね?』
女性は云いました。
『確かにそうだけど…。』
サタンは云いました。
『じゃあこうしよう。クリスマスにはクリスマスカードがつきものだよね。彼にカードを メールで送るって云うのはどうかな。クリスマスカードなら仮に家族に見られたって 大丈夫だし』
女性は云いました。
「それは良いアイディアだけど…。でもメールを送る用意なんてしてないもの』
サタンは云いました。
『それなら大丈夫。僕がノートパソコンとメールでカードを送れるサイトを用意して あるから』
女性は云いました。
『ありがとう。気が利くのね』
そして彼女は彼にメールを出しました。彼女はちょっと幸せな時間を過ごしたそうです。
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が 平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。総ての物事はは等価だということを 教えてあげるよ…さあこれで貴女の想いは叶うはずだから」
……おしまい」

「それでどうなったの?」
「うん、もうちょっとしたら…ほらやってきた。貴女は彼らの逮捕されるけど心配しないで。 すぐに彼も貴女の後を追うから。そうしたら貴女と彼は一緒だよ。貴女のクリスマスカードが 幸せを呼んだんだからね」

そういってサタンが姿を消すと扉の向こうから警察官が何人もやってきました。そして 女性とその彼の名前を読み上げながら云ったのです。東京証券所、ナスダック及び 各証券会社への不正アクセス並びに住民基本台帳ネットワークへの公文書改竄の 容疑で逮捕する、と。
宝石のようにきらめく手錠が女性の手に伸びてきて───

- 了 -

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