「じゃあサタンが水族館にやってきたのお話をしてあげよう」
「どんなお話?」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、
それは水族館のクラゲ・タコ展示コーナーに佇む女子中学生の頭にふわりと乗りました。
サタンは云いました。
『半日以上そうしているね』
少女は物憂げに答えます。
『この子たちはいいよね。海には国境なんてないんでしょ?』
サタンは云いました。
『海流や水温などの条件はあっても、彼らは過ごしやすい場所を求めて好きに移動しているね』
少女は答えます。
『私もそうしたい。クラゲみたいに家族でふわふわ泳ぎたいし、タコみたいに静かにゆっくり過ごしたい』
サタンは云いました。
『今はそうじゃないのかい?』
少女は答えます。
『父が国境なき医師団ってヤツで、ずっと海外にいるの。海外で戦争が無くならない限り帰ってこれない』
サタンは云いました。
『それは寂しいね。せめてこれをプレゼントさせてもらおうかな』
少女は答えます。
『チケット? 魚たちにご飯をあげよう……?』
サタンは云いました。
『国境が無くても、遠く離れていても、みんなで美味しい食事をしよう。餌やりイベントのチケットです』
少女は答えます。
『ふふ、ありがとう。この子達にご飯あげて……そうだ、お父さん帰ってくるまでに料理の勉強して、美味しいご飯を作ってあげようかな』
サタンは云いました。
『それは素晴らしい……こうしてみているとタコも可愛く感じるね。お、このタコ青くなった』
少女は答えます。
『でしょ? そうだ、折角だからタコとクラゲを使った料理を考えてみようっと』
……おしまい」
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
「先日発見された男女の死亡事件に新たな展開です」
「女性の自宅で交際中と思われる男性が食べた『アジとクラゲとタコのマリネ』に毒性の高いヒョウモンダコが含まれていることが判明しました」
「自分たちで調理した際に毒性生物が混入していた事での食中毒による事故である可能性が高いとのことです」
「……続いて、先月起きた海外で活動中の国境なき医師団が武装勢力に襲撃された事件ですが、参加していた日本人医師の死亡が
確認されています。なお、詳細な身元については照会中とのことです」
- 了 -
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