「じゃあサタンが猫島にやってきたのお話をしてあげよう」
「……」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、
それは小さな匣に収まっている男の子にふわりと乗りました。
『寒くないですか?』
サタンは云いました。
『……』
彼は頭だけを軽く振りました。
『なるほど、自分の身に何が起きているか解らない、といった感じでしょうか』
サタンは云いました。
『……』
彼はもぞもぞと短い手足を動かしています。
『思い通りに体が動かないのですね』
サタンは毛布を取り出し彼にかけてあげました。
『……!』
彼は何かを訴えるかのように呻いています。
『残念ですが私には捨てられた者を拾うことはできないのですよ』
サタンは悲しげに微笑みます。
『……に゛ゃ゛』
彼は言葉にならない言葉を咳きます。
『傷が痛むのですね。酷い目に遭わされましたね。せめて傷だけは治してあげましょう』
サタンが手をかざすと彼の出血が止まりました。
『……ふすー』
彼はか弱く喉を鳴らして呼吸をしています。
『この島には君と同じような経緯でやってきた子がたくさんいます。中には拾われて大事に飼われている子もいるらしいから希望は捨てないでください』
……おしまい」
「嗚呼、こんなところに捨て猫が。寂しいだろう? 怖いだろう?」
そう呟くと彼はジャケットの内側から一振りのナイフを取り出しました。
彼が子猫に手を伸ばした直後、
「お前、何してんだ?」
彼の後ろからサンタ服の、それでいて粗暴な雰囲気をまとった男たちが現れて彼を押さえつけました。
「おいてめえ、何するつもりだ?」
サンタ服の男が彼を殴り倒し持っていたプレゼント用の袋に詰めました。
「猫島にわざわざ猫を捨てにくるやつらを注意するためのクリスマスイベントでとんでもないヤツを見つけたな」
「若頭、サンタコスはどうかと思ってましたが、思わぬ役に立ちましたね」
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
「(ここはどこだ…?)」
「(痛い痛い痛い!!)」
「(腕が!?脚が!?)」
「(声も出せない!!)」
「(あ、おい、そこのあんた、助けてくれ!)」
- 了 -
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