「じゃあサタンが異世界にやってきたのお話をしてあげよう」
「……ありがとう」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、
それは冬休みの路上で独り寂しく精算している少年にふわりと乗りました。
サタンは少年に声を掛けようとしました。
『少年───』
少年が振り向こうとした瞬間、信号無視のトラックが少年に衝突してしまいました。
『こ、ここは……?』
サタンは云いました。
『どうやら君と私はいわゆる<異世界>に来てしまったようだね』
少年は云いました。
『とりあえずこの世界の魔王ってのを倒して欲しい、というのがこの世界の神様の願いらしいな』
サタンは云いました。
『しかもその魔王も昔に召喚された地球人らしいね』
少年は云いました。
『地球人はこっちの世界の人に比べると頑強で魔力限界値が高く、寿命もかなり長い……だっけか』
サタンは云いました。
『あとは……』
少年は云いました。
『元の世界にどうやってもどるか、だ』
サタンは云いました。
『それについては情報が。この世界の神の依頼を終えること、そして向こうの世界とのつながりを強くすること』
少年は云いました。
『つながりを……?』
サタンは云いました。
『転移した日はクリスマスだった。こっちの世界に同じクリスマスという風習を広めることでもとの世界との接続が強くなる』
少年は云いました。
『じゃあまずはそこの赤い鎧に身を包んだ魔王を倒して神の依頼を果たすとするか』
……おしまい」
「よし、一年かけて魔王を倒したぞ!」
「まずは王に謁見して、司祭に神へ報告してもらって……」
「褒美として魔王討伐記念日を作ってもらって、その日をクリスマスとしよう」
「良い子にしてたら神の使いのサンタが来て、悪い子には魔王がさらいに来る、とかそんな感じで……」
「は? 隣国の邪教国家を殲滅しろ?」
「それは別に信仰の自由だろ」
「じゃないと神を呼び出して魔王討伐を報告しないだって……?」
…
……
「魔王を倒した勇者が国王と王妃を惨殺したそうだ」
「なんか自分の記念日を作れとか言ってるらしいな」
「どうやら隣国の大神官が別の世界から勇者を召喚するらしいぞ」
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
「君が魔王か」
「嗚呼、俺の後釜か──」
「君を倒せばもとの世界に帰れるんだ」
「そう思い続けて俺の鎧はすっかり返り血で真っ赤になっちまった。そうだ、俺の名前を知っているか?」
「いや、単に魔王としか──」
「俺も後で知ったんだが、この世界の魔王は代々”サンタクロース”って呼ばれてるらしいぞ」
- 了 -
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