「じゃあサタンが教会にやってきたのお話をしてあげよう」
「……ありがとう」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、
それは教会で独り寂しく座っているシスターにふわりと乗りました。
サタンはシスターに云いました。
『何を怯えているのです、シスター・エイプリル』
するとシスターは答えました。
『サンタクロースが…サンタクロースが怖いのです』
サタンは云いました。
『シスターのお言葉とは思えない言葉ですね』
シスターは云いました。
『恥ずかしながら、以前サンタクロースの格好をした泥棒に殺されそうになったのです』
サタンは云いました。
『しかし教会でサンタクロースを呼んだりできなくて困るのでは?』
シスターは云いました。
『そんな時は兄が代わりにやってくれたのです』
サタンは云いました。
『今日お兄さんは?』
シスターは云いました。
『教会で子どもたちにプレゼントを配ってるはず』
サタンは云いました。
『じゃあ私からのプレゼント。これがあればきっと安心だよ』
シスターは云いました。
『これはなんですか?』
サタンは云いました。
『聖書とロウソクだよ。塵は塵に灰は灰に、ってね』
シスターは云いました。
『ありがとう。いい言葉ですよね』
……おしまい」
「中に居るのは解っている! 出てくるんだ!」
「……応答ありませんね」
「合鍵をもってこい」
「はい」
「内鍵がかかってます。どうやら我々のサンタは中に居るようですね」
「笑えないジョークはよせ」
「鉄製の扉とは厳重ですね。確か部屋に本物の暖炉があるはずだから煙突から入りましょうか?」
「それじゃこっちがサンタだろ。いいからハンマーでも用意しろ」
…
……
「あ、中から煙が!」
「うわ、火が!」
「追い詰められて火を着けたんだ! 避難して消防だ!」
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
「被害者の…えっと、四月一日、ってなんて読むんです?」
「四月一日行人と書いて『わたぬきゆきひと』って読むんだ。この教会の牧師のひとり息子だよ」
- 了 -
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