魂魄堂 書庫

- サタンが病院にやってきた -


「じゃあサタンが病院にやってきたのお話をしてあげよう」
「うん」

「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。 サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、それは病院の廊下でうつむいている少年にふわりと 乗りました。
サタンは少年に云いました。
『随分顔色が悪いね』
すると少年は答えました。
『双子のおねえちゃんが、ずっと病気で、さっきお母さんがお医者さんと話してるのをこっそり聞いちゃったんだ。このまま 目を覚まさずに、死んじゃうかも、って』
サタンが今にも泣き出しそうな少年に云いました。
『それは心配だね』
少年は涙をこらえながら云いました。
『ボクと同じ、まだ11際なのに、どうして、おねえちゃんだけ、が。代わってあげられたら、良いのに』
サタンはゆっくりとこう云いました。
『じゃあ代わってみるかい?』
少年はびくりと肩を震わせながら云いました。
『そんなこと、無理なの知ってるよ』
サタンは軽く頷いて云いました。
『かもしれないね。でもね、試してみてもいいんじゃないかな。この小瓶に入った液体を一滴、おねえちゃんの唇に 垂らして残った分をキミが飲む。するとキミの寿命の半分が彼女に移動するんだ。代わりにキミの寿命は残り2日なってしまうけども』
少年は震える声を押し殺すように云いました。
『それが本当ならそれでも良い。おねえちゃんがそれで生きてくれるなら』
涙をこらえながら、いじらしい少年にサタンは優しげに微笑んで黒い袋から小瓶を取り出して、
『ほら、これをあげよう。ただし、これを飲んだ後、キミの寿命が来る前にあることをやらなければ効果は無効になっちゃうんだ』
少年は云いました。
『どんなことでもするよ!』
サタンは頷きました。
『良い覚悟だね。じゃあ云うよ。ひとつ、たくさん飲むキミの方は、効果が出るまでの10分間死ぬほど苦しい。まあ実際に 寿命が減るわけだしね。多くの人はそこで薬を吐いて失敗するか、ショックで死んだりその場で自殺して失敗する。 そしてもうひとつ、2日後のクリスマスに二人で一緒にケーキを食べるんだ。どうかな?」
少年は少し考えた素振りを見せてからしっかりと頷いたのです。
『おや、いいのかい? まずはキミの残りの寿命を聞いてからでもいいと思うけど』
少年はかぶりを振って云いました。
『ううん、大丈夫。だから、それを、ください』
……おしまい」

「どうしておねえちゃんは次の日にまた倒れたの?」
「だから云ったじゃないか。まずは寿命を見てみたら、って」
「どういうこと、なの?」
「キミの残りの寿命はあの時点で2日しかなかったんだ。だからキミのおねえちゃんは1日しか生きられなかった。キミにとっては 逆に寿命が伸びちゃったことになるけどね。でも大丈夫、キミたちはケーキを食べることはできなかったけど、条件を満たせなかった 場合、また薬を飲んだ直後の時間に戻されるんだ。死ぬほど苦しいけどいつかは絶対に条件を満たせる神のようなアイテムなんだよ!」

サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。 独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」

気が付くと少年の前に居たサタンは姿を消していて
喉が焼けつくような痛痒を訴え
涙を流し口を手で塞ぎながら時計を見ると
確かに日付は戻っていて
でも今回も条件を満たせないから
明日の夜にはおねえちゃんには寿命が来て
そしてまたこの死ぬほど苦しい時間がやってきて
それでもまたおねえちゃんと過ごすことが出来る───
少年は泣きながら確かに笑っていたのです。

- 了 -

目録へ