「じゃあサタンが神社にやってきたのお話をしてあげよう」
「うん!」
「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。
サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、それは神社の境内に佇む少女にふわりと
乗りました。
サタンは少女に云いました。
『具合悪そうなのに何をそんなに熱心に祈ってるのかな?』
すると少女は答えました。
『妹がね、ずっと病気で手術しなきゃ治らないの。でも家にはお金がないから…。だから神様に
毎日お願いを、うっ』
サタンが具合の悪そうな少女の背中をさすりながら聞きました。
『大丈夫?吐きそう?』
少女は淋しげにと云いました。
『最近ずっとこうなの。新しいお義父さんの薬を飲めば落ち着くから大丈夫』
サタンはゆっくりとこう云いました。
『吐いてしまっても良いのに。知ってるかい? この神社の御祭神は宇迦之御魂神、保食神とも言われていて、
素盞鳴尊を歓待するのに自らが吐いたお米を使ったんだ』
少女は弱々しく笑って答えます。
『うーん、それはちょっと食べたくないな。』
サタンは軽く頷いて云いました。
『だろうね。保食神も怒った素盞鳴尊に殺されちゃったし』
少女は悲しそうに目を伏せます。
『保食神は殺される…』
うなだれる少女にサタンは優しげに微笑んで黒い袋から大きな箱を取り出して、
『ほら、これをあげよう。辛い時に飲めばきっと楽になるよ』
少女はいいました。
『わ、ありがとう。とっても甘くていい匂いがするね』
サタンは頷きました。
『甘いけどほろ苦い、アーモンドたっぷりのチョコブラウニーだよ』
少女はサタンにもらったそれを大事に胸に抱えて鳥居をくぐって帰宅しました。
……おしまい」
「それで…どうなった…の?」
「ああ、ちゃんと私のプレゼントを食べてくれたんだね」
「うん…美味しかったけど…」
「私はサタン。私が作ったブラウニーはいわば黄泉戸契だよ。ひとたびそれを食べれば君は生者には戻れない」
サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。
独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」
少女は父親からもらった薬を飲みました。
途端に少女は苦しみ嘔吐しました。
しかしすぐにその苦しみは消え少女は落ち着きを取り戻しました。
父親は叫びました。
完全に致死量は超えているはずだ───
心配した少女が父親に近寄ると、父親は持っていた契約書を取り落としました。
そして警察が家にやってきて父親を連れて行きました。神社からの帰り道、激しく嘔吐した少女を解放した
通りがかりの医者が通報したのです。父親が居なくなるのと入れ違いに病院から電話が来ます。
力を尽くしたのですが───
少女は父親が残した薬を全部飲みました。しかしそれは、ブラウニーの甘く美味しい味がしたのです。
- 了 -
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