魂魄堂 書庫

- サタンが湯豆腐屋にやってきた -


「じゃあサタンが湯豆腐屋にやってきたのお話をしてあげよう」
「はい!」

「雪がちらつくクリスマス、家族が楽しくケーキを食べ笑いあう中サタンはやってきました。 サタンがかぶっていた帽子を放り投げると、それは湯豆腐屋に佇む少女にふわりと 乗りました。
サタンは少女に云いました。
『箸があまり進んでないね』
すると少女は答えました。
『毎年クリスマスはお父さんと湯豆腐を食べに来るの。でも最近忙しくてお父さんと全然逢えていないんだ』
サタンがゆっくり聞きました。
『普通そこはケーキだと思うけどな』
少女は淋しげにと云いました。
『ケーキはね、毎年私が買ってるの。でも今年はお父さん居ないし、結局買いそびれちゃった』
サタンはゆっくりとこう云いました。
『じゃあお父さんを迎えに行こう』
少女は首を振って答えます。
『お父さんがどこに居るのか解らないし、きっと邪魔だって怒られちゃう』
サタンは軽く頷いて云いました。
『ふふ、それなら大丈夫。私はキミのお父さんの居場所を知ってるよ』
少女は目を輝かせます。
『え、ホント! あ、でも、クリスマスケーキ買ってない……』
うなだれる少女にサタンは優しげに微笑んで黒い袋から大きな箱を取り出して、
『ほら、これをあげよう。これにはお父さんが欲しがっていたケーキが入っているんだ』
少女はいいました。
『え、本当にいいの!? お父さん喜んでくれるかなぁ』
サタンは頷きました。
『ああ、きっと喜びのあまり抱きしめてくれるはずだよ』
少女はサタンに連れられて白い豆腐のような建物までやってきました。
……おしまい」

「それで…どうなったの?」
「感動の再会ってやつだよ。さあその扉を開けてお父さんにそのケーキを渡してあげよう」
「うん!」
「ちゃんとキャンドルも用意してあるからね」

サタンは云いました。
「ねえ、神様。こんな愉しい日に独り寂しい思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えてあげないなら、私がそれをあげよう。 独り寂しい時間を過ごしている人の望みを叶えてあげる」

少女は父親にケーキの箱を渡しました。
父親は少女の登場に驚きながらケーキの箱を開けてみます。
中に入っていたのは『イエローケーキ』
材料は重ウラン酸ナトリウム、重ウラン酸アンモニウム、含水四酸化ウラン。
名前の通り黄色いそれは、紛失が発覚して探していたもの。

「クリスマスおめでとう」

部屋の外でサタンはそう呟きながら持っていたデーモン・コアをそっと落とす。敷いてある炭化タングステン に触れ青い輝きが部屋中を染め───

- 了 -

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