魂魄堂 書庫

- サタンが街にやってきた -


「サタンが街にやってきた、のお話しをしてあげよう」
「わーい」

「雪降るクリスマス、家族や恋人たちが仲良く行き交う中、サタンはやってきました。 背負った黒い袋から赤と黒に彩られた靴下を、そっとビルの屋上から落としたのです。 それは独りの少女の頭にぱさりと乗りました。サタンが少女に近づくと、少女は寂しげに 独り佇んでいたのです。
サタンは少女に云いました。
『どうしてそんなに哀しい顔をしているんだい?』
すると少女は答えました。
『みんなが、サンタクロースの正体はお父さんだ、っていうの。それでお父さんが居ない あたしにはプレゼントは貰えないって』
サタンは云いました。
『確かにサンタクロースの正体はお父さんだよ。そしてキミのお父さんは、キミに逢うために 一生懸命仕事をしているんだ。サンタクロースの服の色を知ってるだろう?』
少女は云いました。
『うん! 赤と白なの』
サタンは云いました。
『そう、よく知ってるね。実はね、あれはもともと真っ白だったんだよ。そして人々に幸せを 配るたびに、どんどん赤くなっていくんだ。そして真っ赤になったら、きっとお父さんはキミの ところに戻ってくるよ』
少女は云いました。
『本当!? じゃあじゃあ、あたしもお手伝いする!』
サタンは云いました。
『それは良いことだよ。お父さん、サンタクロース・・・・・・いやお父さんもきっと喜ぶと思うよ。 じゃあ私が良い方法を教えてあげよう』
そういうとサタンは黒い袋から小さな匣をいくつも取り出しました。それは赤と白の星が 散りばめられていて、赤いリボンが可愛いな、と少女は思いました。
『これを歩いている仲の良いお兄さんとお姉さんに1個ずつ渡そう。ちょっと耳をあててごらん ・・・・・・歯車の音がするだろう? これはねオルゴールなんだ。夜の12時になったら自然に リボンが解けて天使がお兄さんとお姉さんを祝うんだよ』
少女は云いました。
『すごーい!! それを全部配ったらお父さんが帰ってくるの?』
サタンは云いました。
『ああそうだよ。そうしたらお父さんがプレゼントを配るのが楽になるんだよ。さあ、行ってらっしゃい』
それから数時間後、街のあちこちから悲鳴と怒号、そして赤い炎の舌がすべてを呑み込んで いったのです。サタンは云いました。
『ねえ、神様。こんな愉しい日に辛い思いをしている人が居るんだよ? 貴方が平等を与えて あげないなら、私がそれをあげよう。みんな一緒に貴方の許へ送って上げる。それなら誰も 哀しい思いはしないから』
・・・・・・おしまい」

「それでそれで? お父さんはいつ戻ってくるの?」
「ああ・・・・・・キミか。寒いのによく頑張ったね。じゃあこれからお父さんのいる場所に案内 してあげる。眼を閉じて手を組んで空に祈ってごらん・・・・・・」
「・・・・・・こう、かな?」
「そうそう」

そしてサタンは黒い袋からS&W M36チーフス・スペシャルを取り出して撃鉄を引き上げました。 銃口を少女の眉間に近づけ───

- 了 -

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