その当時少年は中学生だったのです。
そして少年は北海道に住んでいて、季節は冬でした。
彼は図書館から本を借りていて、本を部屋の床に置いたまま外出しました。
帰宅して部屋に戻ってきた少年は暖をとるために灯油ストーブに火を入れ、そのまま本を読んでいたのです。
暫くして少年は妙な臭いがするのに気が付きました。
化学物質が溶けているような・・・・・・
ふと見ると、部屋の天井付近が黒いのに気が付きます。
いや、煙だ。煙が充満していたのです。
少年はその煙を辿ると・・・・・・
灯油ストーブの上に置かれた、数冊の本。それは確かに少年が借りてきた図書館の本でした。
しかし、少年は確かに床の上に置いてあったはずでした。
取り敢えず窓を開け黒煙を排出します。
ストーブの消火を終え本を救出しましたが、1番下の本が熱により糊が融け、ページが剥がれ落ちています。
他の本は無事だったのだが、一体誰が。
ふとゴミ箱を見ると、入っていたゴミが無いのです。
「母親か・・・・・・」
犯人は解りましたが、失われた命は取り戻せません。
しかし少年は自らの過失を告知出来なかったのです。
無事な本を返却し、その1冊は当然未返却です。
それから半年後、図書館から返却督促状が届きます。
勿論返却することなどできません。
更に半年が経ち、2枚目の督促状が届きました。
少年は無言で首を振りました。
しかし3枚目の督促状が届く頃になると、彼も考え始めました。
「このままだといつか事件が露見する」
すでに遺体となった本は処分しており、証拠はありません。
しかし、このままでは本が亡くなった事が遠からず発覚する事は必至です。
少年は考えました。そして・・・・・・
「身代わりを立てよう」
少年は古本屋へ行き、亡くなった本と同じ本を購入してきました。
そうです。亡くなった事が解らなければ事件は発覚しない、と考えたのでした。
幸い、と云って良いのでしょうか、少年は亡くなった本から遺留品、即ち背表紙の分類シールと裏表紙の識別バーコードを
切り取っていたのです。
少年はそれらを移植し、図書館へと向かいました。
それでもやはり司書と顔を合わせるのには抵抗があり、わざわざ休館日に行き返却ポストに投函したのです。
なぜなら少年が創り出した偽物には1つだけ異なる部位が存在したからです。
図書館の本なら必ず処置されているであろう保護シートは少年には用意できなかったのでした。
しばらく少年は怯えながら生活をしていましたが、取り敢えずばれてはいないようでした。
それから少年は1年ほど図書館には近づかなかったのです。
ほとぼりが冷めたとおぼしき頃、少年は密かに図書館へ赴き書架を確認しました。
そして見つけたのです。
彼が身代わりとして派遣した本が何事も無く陳列されている事を。
少年はにやりと笑みを浮かべたそうです。そして宣言しました。
「ここに1つの完全犯罪が成立したのだ」
と。
後にかれは高校に於いて図書委員となりました。
そして製本しながら思ったそうです。
「この保護シートがあれば更に完璧だった」
- 了 -
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