「人生のコンティニューをあげようか?」
「?」
「例えば交通事故に遭った時、例えば彼女と喧嘩して別れちゃった時、その失敗を無かった事にしてあげられるんだ」
「便利だけどどうせ何回戻っても事故の直前で、永遠にループしちゃうってオチだろ」
「いやいや『無かった事に』って云っただろ? だからコンティニューをすると事故が起きた後も無傷だし
喧嘩した記憶も無くなるって寸法さ。ただコンティニューするには一定の条件をクリアしないとならないから
使う時には気をつけないと駄目だけど」
「じゃあ息を10分間止め続けろ、とか無理難題をふっかけられるんじゃないの?」
「いやいや、ちゃんとその時に頑張れば可能な条件しか出されないから大丈夫。でも難しいコンティニューには
難しい条件が付くから気をつけないと駄目だけど」
「ほぅ、じゃあもらおうかな」
「あ、タマゴ落とした。試してみるか。コンティニュー!」
『ジャンプして空中で両手両足を打ち鳴らせ』
「よいしょっと。ぱっちん、と」
……
…
「おお、タマゴ焼きが完成してる! でもだし巻き卵の予定がスクランブルエッグかぁ……ま、いいけど」
「やあ、コンティニューの調子はどうだい?」
「なるほど、これは便利だな。これなら試験も余裕だしギャンブルにだって負けない。まさに人生イージーモードってヤツだよ」
「いやいや、あくまでも『失敗を無かった事にする』だけで成功をもたらすわけじゃないから気をつけないと駄目だけど」
「ん、どういうことだ?」
「例えばキミが云った試験だって、コンティニューすれば赤点や落第は無いけど『満点を取った事』には出来ないんだ」
「そっか、失敗を無かった事にするだけで、必要以上の成功はもたらさない、と」
「そう、だから使い方にはくれぐれも気をつけないと駄目だけど」
「くそ! あの子に告白を繰り返してもう5回だ! どうやったら彼女と付き合えるんだ。告白失敗や失態は無かった事にしてるけど
所詮現状止まり……」
「長いこと考え続けて答えを出した。オレが無かった事にするのは『彼女と一緒に居られない原因になる今までの人生』だ。
これをキャンセルすればオレは彼女と一緒に居られるようになってるはず……。コンティニュー!」
『両目を開きながら何も見るな』
「は……? 意味がわかんねぇよ? こんなの努力してできるわけねーじゃねーか! おい、どういうことだ!?」
「やあ、久しぶり。また難しいコンティニューを選んだね」
「何が努力したら出来る条件だ。無茶苦茶じゃねぇかよ」
「やだなぁ、しっかり考えてよ。あるでしょ、方法。目を開いててもさ、何も見ないでいられる方法が……さ」
「は、おま、まさか」
「ちなみにこのコンティニュー待ち状態は時間も止まってるし、痛みや空腹なんかも感じないから安心してね」
「もうキミと一緒に生活するようになって1年になるのか」
「うん、まさかこんな事になるとは昔は思っても居なかった」
「オレはキミと一緒に居られて嬉しいよ」
「そういってくれたらわたしもちょっとだけ嬉しいな」
「いつもありがとう」
「ううん、いいのよ。私の大事な義弟だもの。一緒に住んで生活の手伝いをするくらい何でもないよ」
- 了 -
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