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- ■十三角関係 名探偵・荊木歓喜
- 大和書房 1956/??/??
- 本体価格 1300円
- 2001/08/24 記録
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「それ、嘘倶楽部、嘘倶楽部」
医者崩れの荊木が居酒屋で酒を呑んでいると、そこに高校生らしい少女が顕れ「恋ぐるま」
と云う遊郭の場所を尋ねてきた。道案内がてら少女に同行した荊木は、目的の恋ぐるまの
シンボルである大きなネオン付きの風車にばらばらにぶら下げられた店のママの姿を見た。
冒頭からいきなり派手に事件が起こる。見ようによっては幻想的な、そしてシュールな事件。
そして店に顕れた、という白マスクと黒マスクの男たち。序盤は彼らの正体を探りつつ、孤立
していた恋ぐるまに於いての時系列の謎が主題になっている。正直、この辺りは展開も遅く
あまり愉しめなかった。
その後事件当夜の行動が判明し、事件が大きく展開してきた頃になると、序盤に仕掛けられた
大いなる罠の存在に気が付いてくる。登場人物の心の奥に隠された思念が1つの形をとり、
それが大きな意志を持つ。深く深く張り巡らされていた伏線がむっくりと頭をもたげてきている事に
気が付かなかった。
終局付近では、当初感じたのんびりした雰囲気は払拭されいつの間にやら本格推理の持つ
ぞくぞくする雰囲気に包まれていた。足許にまで忍び寄った伏線が大きな蛇となった時、総てが
蛇に呑み込まれ闇が残る。
そして「やられた」と実感するのだ。ロジック、トリック、プロット、どれをとっても極上の作品であり
一切の隙を見せない。最後の展開は荊木が云うように受け入れられない人も居るだろう。
しかし救われざる物語を救うためには、これで良かったように思う。名探偵・荊木歓喜と云う
存在を越えた物語こそが。
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