魂魄堂 読了書覚書 - 若竹七海 -


■依頼人は死んだ
文藝春秋 2000/05/30 初版
本体価格 1762円(税別)
2002/04/01 記録

「前払いなしで動く探偵がいますか」

女性探偵・葉村晶シリーズの連作短編。連作といっても、時間と舞台が連続している だけなんだけど、一応個別に評するのは割愛。やっぱり葉村のキャラが強くて面白いな。 この作者の描く女性の中でも群を抜いてアクが強い。

そしてしっとりと人情溢れる物語と思わせておいて、そこまでしなくてもと思わせる程の プロットも健在。ミステリィじゃない作品もあるけど、このシリーズはどちらかと云うとハードボイルド だろうから気にはならないだろう。

淡々とした文章に見え隠れする陰鬱な部分が読者にじわりじわりと染み込んでくる。 ぞくり、と背筋が寒くなってくる。ハードボイルドではあるが何だかホラーのような印象も あり、いろんな意味で愉しめるだろう。

やはりこの物語は、葉村晶抜きでは成立しないのだと痛感する。


■悪いうさぎ
文藝春秋 2001/10/15 初版
本体価格 1810円(税別)
2002/05/06 記録

「・・・・・・やりましょう」

葉村晶は契約外の探偵事務所から家出した女子高生を自宅に連れ戻す仕事を受けたが、 一緒に居た暴力探偵とトラブルを起こしてしまう。それからしばらくして、その女子高生の友人が 行方不明になったので探して欲しいとの指名を受けた。しかし彼女たちの交友関係を調べていく内に 関係者が刺殺されてしまうという事件に遭遇してしまう。



やはり葉村シリーズの長編は読み応えがある。葉村のさばさばしたキャラクタに共感を抱きつつも、 その性格ゆえか廻りとのトラブルが避けられず、だからといって世間におもねらない。そんな葉村の 活躍だけで牽引力が高まる。

どちらかというとパズラ的な本格ミステリィというよりも、ハードボイルドに近いだろう。もともと 探偵(興信所)が仕事だけに、その展開は聞き込みなどの情報蒐集がメインであって地味と いわざるを得ない。

それでも面白いのはやはり葉村や彼女を取り囲む、一筋縄ではいかない人々が生き生きと 活躍しつつ、そしてどろどろしたブラックな面をちらつかせているせい。葉村が健気に前向きに 行動しようとしているせいで、そういった人間くささや暗い内面が浮き彫りになる。

だけどそれはじとじとしているわけではなく、さらっと流せてしまうのもやはり葉村が居るお陰。 この作者、特にこのシリーズはブラックな展開になるのがおきまりなのだが、やはり今回も 例には漏れない。複雑な人間関係の裏ではこれ以上ないほどのダークなプロットがひしめきあって いた。

それこそ吐きそうになるくらい、躯が震えるくらいに徹底的に心の暗部を突きつけられるが、 読後感はそんなに悪くない。そしてまた葉村の活躍を見たくなる。ハードボイルド青春ミステリィ 小説とでもいおうか。

それに今回のラストは葉村にとってなかなか皮肉で面白いし。


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