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- ■彼女は存在しない
- 幻冬舎 2001/09/10 初版
- 本体価格 1600円(税別)
- 2002/05/07 記録
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「───ただ単に、慣れただけの話さ」
待ち合わせをしている男女と偶然出会った女性。その女性は待ち合わせをしていた
女性を「アヤコ」と呼ぶが否定される。由子と名乗った女性はちょっとした縁でその男女と
一晩行動を共にするが、翌朝居なくなってしまう。一方大学生の根本は、早くに亡くなった
父に続いて母親を亡くし、学校にも行かず仕事もしない妹の奇妙な行動に戸惑いを
隠せなかった。
テーマとしてはありきたりだが、それに関する処理が巧い。壊れかけたキャラを書かせたら
右に出る者は・・・・・・佐藤友哉がいるか。相変わらずセックスに関して歪んだ思想を
持ってそうな感じだが、今回はプロットとの連携が巧いので問題ない。
トリックをみても派手ではないけど、とても効果的に使われていてすっかり騙されてしまった。
ミステリィ的な点から云っても、今回はかなり直球勝負でしかも成功しているのではないだろうか。
文章からも青臭さがいくぶん抜けているようで、ささくれていて読みにくかったのが改善されている。
やはり作品事に巧くなっていく作者なのだろう。それでも作品に漂う陰鬱な雰囲気は
嫌いじゃないし。
そして本作品のいくつかの部分に関して、私自身が投影されているような部分があって、
他人事じゃないというか私が抱えている苦しみの一端を表しているようで。
「何も出来なくてごめん」といった彼の言葉、それは私の言葉でもある。私も心から
そう思う。そして私も狂ってしまうこと、壊れてしまう事を心待ちにしているのかも知れない。
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