魂魄堂 読了書覚書 - 浦賀和宏 -


■彼女は存在しない
幻冬舎 2001/09/10 初版
本体価格 1600円(税別)
2002/05/07 記録

「───ただ単に、慣れただけの話さ」

待ち合わせをしている男女と偶然出会った女性。その女性は待ち合わせをしていた 女性を「アヤコ」と呼ぶが否定される。由子と名乗った女性はちょっとした縁でその男女と 一晩行動を共にするが、翌朝居なくなってしまう。一方大学生の根本は、早くに亡くなった 父に続いて母親を亡くし、学校にも行かず仕事もしない妹の奇妙な行動に戸惑いを 隠せなかった。



テーマとしてはありきたりだが、それに関する処理が巧い。壊れかけたキャラを書かせたら 右に出る者は・・・・・・佐藤友哉がいるか。相変わらずセックスに関して歪んだ思想を 持ってそうな感じだが、今回はプロットとの連携が巧いので問題ない。

トリックをみても派手ではないけど、とても効果的に使われていてすっかり騙されてしまった。 ミステリィ的な点から云っても、今回はかなり直球勝負でしかも成功しているのではないだろうか。

文章からも青臭さがいくぶん抜けているようで、ささくれていて読みにくかったのが改善されている。 やはり作品事に巧くなっていく作者なのだろう。それでも作品に漂う陰鬱な雰囲気は 嫌いじゃないし。

そして本作品のいくつかの部分に関して、私自身が投影されているような部分があって、 他人事じゃないというか私が抱えている苦しみの一端を表しているようで。

「何も出来なくてごめん」といった彼の言葉、それは私の言葉でもある。私も心から そう思う。そして私も狂ってしまうこと、壊れてしまう事を心待ちにしているのかも知れない。




■眠りの牢獄
講談社ノベルス 2001/05/05 初版
本体価格 720円(税別)
2002/08/26 記録

「違う、シェルターだ」

階段から落ちて昏睡状態に陥った女性の関係者が地下核シェルタに閉じこめられた。 閉じこめた人間は、そこから出たければ昏睡状態に陥った彼女を階段から突き落とした 犯人の自白が必要だという。3人が困惑する中、シェルタの外では何者かによる完全殺人 計画がメイル交換によって画策されていた。



これは文句なしに面白い。ページ数が少ないせいか、普段見受けられる陰鬱なクドクドした 印象がなく、仕掛けられたトリックも膝を打つ出来である。パズラとしての伏線としては 若干甘いものの、ミステリィとしての伏線はしっかりと張ってあるし、その伏線も面白い 角度で張られている。

とにかくあらゆる意味で無駄がなくすっきりと仕上がっている。もしかしたらこの作者、 「安藤シリーズ」以外の作品の方が何倍も面白いのではないだろうか。実際シリーズ外の 作品に外れがないし。

トリックそのものはそれほど目新しいものではないのだが、それの処理方法(つまりは 伏線)が巧緻極まっているために古くささをまったく感じられない。まあ難をいえば、 毎回のようにでてくるセックス描写が稚拙で余り経験がないのを、どこかで仕入れた 知識で書いているような処か。それでも今回はセックス描写は必要だったし、 ある意味その稚拙さが作品の完成度を増していると云えなくもないか。


■学園祭の悪魔
講談社ノベルス 2002/02/05 初版
本体価格 740円(税別)
2002/09/02 記録

「安藤君は、名探偵だよ」

安藤直樹は恋人が居る高校の学園祭にやってきていた。そこで独りの少女と出逢う。 少女は安藤に興味を抱き何かと接触を試みようとする。そして近所で起きていた 犬の連続惨殺事件の調査を依頼する事にした。その頃日本各地で同じ名前の女性が 連続で惨殺される事件が発生していた。



「安藤直樹」シリーズなのだが、今までの作品と全然印象が違う。久しぶりに読んだ せいもあるかもしれないが、どうも安藤と留美の性格や行動パターンに違和感を 覚えた。

同名女性連続殺人事件や犬の連続惨殺事件など、それらしい展開を見せるのだが、 犬の方はともかく、前者がなあ。そして後半になってますます安藤らしくない言動が 目立ち始めた。もしかしたらコレなんじゃないかと思ったんだけど・・・・・・


だけどそれらしい描写はなかったし、他の登場人物などから推察しても違いそうだし。 なんだよ、全然ミステリィじゃないじゃないか!
と思ったら。

「浦賀エンタテインメント最新作(裏表紙より)」

だそうで。どこにもミステリィとは書いてないのか・・・・・・
うーん、なんというか、この作品だけだと中途半端にしか思えない。


■火事と密室と、雨男の物語
講談社ノベルス 2005/07/05 初版
本体価格 950円(税別)
2006/05/17 記録

「じゃあ、私のパンツは?」

不死身の男、八木の通う学校で首を吊って死んでいる女生徒が発見された。滅多に振らない 雨が降り連続放火事件が頻発する中、ある噂を聞きつけ噂の元となった男に話を聞きに行く 事になる。八木と純奈はそこである不思議な話を聞く。



前作から続く純奈シリーズの2作目。タイトル通りに連続放火事件や足跡による密室などが 交錯していく。だがミステリィ的展開よりも八木を含めた人間関係の描写がページのほとんどを 占めているように思う。

過去から現在進行形で続く八木への理不尽な廻りの行動。自分が悪くないなら誰が悪いのか? 自己嫌悪と八つ当たりと理不尽な世界への怒りがいろんな人の口を借りて語られていく。 個人的には八木と似たような経験があるのでちょっと痛い気持ちを思い出しつつ興味深く 読めた。

浦賀らしく全体的に暗い話だが登場人物たちが面白く描写されてるので初期の作品ほど どんよりはしていない。だが肝心のミステリィ部分がちょっと物足りない気がする。核となる トリックがアレでは流石にがっかりしちゃう。


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