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- ■砂糖は殺意の右側に
- 詳伝社ノン・ノベル 2001/02/20 初版
- 本体価格 819円(税別)
- 2001/09/22 記録
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「ふたごそすう?」
小笠原諸島からやってきた、知能は高いが世間知らずの龍之介がおりなす7編のパズル。わずかに
人とずれた感性を持つ彼の視点が事件を解き明かしていく。そのIQは190の、まさに天才なのである。
「エデンは月の裏側に」
龍之介たちは、ある人の消息を求めてその人が勤務していた研究所を訪ねる。そして雨の降る中
屋上でもみ合う2人の男性を目撃する。その最中、1人が下の池に転落したが、引き上げた男の
背中には矢が突き刺さっていた。
短編ながらなかなか細かい処にまで気配りが為されていて、短編集のつかみとしては悪くない。
キャラクタ紹介と云う点でも、龍之介の特異性が引き立てられていると云う点は面白い。しかしながら
このトリック自体はどうだろうか。確かにそれ程悪くは無いが、どうも引っ掛かりを覚えてしまう。
一言で云うならばどうも洗練されていないのだ。もうちょっと、トリックに関する伏線があれば良かったのだが、
短編でそこまでは酷な事なのかもしれない。
「殺意は砂糖の右側に」
龍之介たちと「私」の恋人(未満?)の一美が、とある料理コンテストに出場する事になった。そのコンテストの
主催者に一美の元交際相手が居て、主催者のメンバとお茶を同席する事になった。だが龍之介たちが
席を外したのと入れ替わりにやってきた男が、毒殺されてしまう。
これはこの短編集で最も洗練されていて面白かった。ハウダニットに対する拘りが感じられるし、トリックも
アクロバティックでなかなか巧い。ロジックもなかなか精巧だが、多少偶然性に頼りすぎているきらいもあるかも。
そしてちょっと気になるのが・・・・・・
「凶器は死角の奥底に」
フィリピンへ行きたい龍之介が、あるクイズに正解し見事商品であるフィリピン行きのチケットを入手する。だが、
実際にチケットを入手するには主催者が経営するナイトクラブへ行かなくてはならず、龍之介と「私」がクラブへ
行くと、クラブのオーナが撲殺されているのに出くわした。
ロジックとしてはなかなかに面白い。途中提示される日常の謎のようなももの、説明を受ければ説得力もあり
巧くパズラとしての伏線になっているのではないだろうか。しかし凶器の隠し場所がちょっと気になるのだが。
いくらなんでも都合良すぎないか? 被害者がアレをあんな事に使う必然性も無いだろうし。しかしながら、その
辺りの設定を呑み込んでしまえば、かなり純度の高いパズラなのでは無いだろうか。
「銀河はコップの内側に」
フィリピンへのチケットを入手した龍之介たちは、飛行機に乗り、一路フィリピンを目指していた。その飛行機内で
ある夫人のバッグが紛失した。バッグを探していると、洗面所で女性が殺されているのを発見する。
結構手の込んだパズラかもしれない。舞台は整っているし、まあ、洗面所やトイレで屍体が発見される展開は
べただけどそれなりにインパクトはある。しかしここで犯人が使ったトリックには多少無理があるとしかいえない。
それに気が付けば、一発で犯人が解るがそもそもそんな行動を取るとは思えない。こうなってくると、途中語られる
蘊蓄知識も不必要な装飾に成り下がってしまう。
「夕日はマラッカの海原に」
無事フィリピンへと到着した龍之介たちは、現地ガイドを雇い目的地へ向かう。だが途中、地元住民が信仰する
神像を破壊してしまい、龍之介たちは捕らえられてしまう。そこで「私」は精霊が宿った銃弾で人形を撃て、と
云われ、その通りにすると銃口とはまったく別の方向にいたガイドが死んでしまった。
これはちょっとアンフェア過ぎないか? 伏線らしきものが無い訳じゃないが、それにしてもロジックからトリックを引き出す
過程としてかなり恣意的な選択をさせられているような気がする。消去法の結果であったにせよ、龍之介の推理が
正しければ、もっと以前にその情報を入手しているのが普通なのではないだろうか。
「ダイヤモンドは永遠に」
銃撃事件をやり過ごして到着したのはとある宿屋。そこから久しぶりに日本へ電話してみると、一美の兄が
トラブルに巻き込まれているという。ダイヤの原石を密輸した犯人が警察に追われながらも、一美の兄の部屋に
逃げ込む。犯人は捕まったものの、肝心のダイヤが見つからないのだという。
悪くは無い・・・・・・のだが。どうにも淡泊に過ぎるというか、真相を知ったとしても対して驚けないのだ。大体
警察が徹底的に調査して解らないような場所とも思えないし、折角用意されたダミーの隠し場所が余り
生かされていないのでは。もう少し、トリッキィな展開を期待してしまった。
「あかずの扉は潮風の中に」
漸く目的地に到着した一行だったが、残念ながら探し求めていた人物と行き違いになってしまう。その人物が
管理していたという洞窟に納められていた物の場所がずらされていたのだという。鍵を持っているのは、本人と
もう1人だけ。果たして彼は日本には帰っていなかったのだろうか?
いくつかの謎がばらばらに分散しているものの、最終的にはそれらがきっちりと収斂されていく。しかしながらトリックとしては
ちょっと使い古された感のあるもののように思える。せめてもう少し見せ方に捻りを加えてくれると良かったのだが。
最終的に伏線を回収しきれずに、ある人物の行動理由をすっきり説明できていない点にも不満かも。最期の
作品にしてはパワー不足と云わざるを得ない。
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