魂魄堂 読了書覚書 - 辻村美月 -


冷たい校舎の時は止まる (上)
■冷たい校舎の時は止まる(上)
講談社ノベルス 2004/06/05 初版
本体価格 780円(税別)
2007/4/27 記録
冷たい校舎の時は止まる (中)
■冷たい校舎の時は止まる(中)
講談社ノベルス 2004/07/05 初版
本体価格 800円(税別)
2007/4/27 記録
冷たい校舎の時は止まる  (下)
■冷たい校舎の時は止まる(下)
講談社ノベルス 2004/07/05 初版
本体価格 820円(税別)
2007/4/27 記録

「出たな、化け物」

ある雪の日、いつも通り学校へ来た男女8人が学校に閉じこめられる。扉も窓も開かず、外部への連絡が 一切不可能になる中、全ての時計が止まる。その現象の謎を考察した結果、数ヶ月前に起きた自殺事件 と関係があるのではと結論づける。しかし誰も自殺した友人を思い出すことが出来ない。そうこうしている内に 忽然と姿を消す者が出てきてしまう。果たして誰がこの世界へ閉じこめているのだろうか?



上巻ではキャラクタ相関の描写と、いきなり時の止まった校舎へ閉じこめられた世界構築を行っていて 事件らしい事件はなかなか起きない。そこで飽きてきそうな気もするが、その不可思議な空間が既に蠱惑的な印象を与えていて 冗長な感じは受けない。

ただちょっとキャラクタを書き分ける為なのか、言動があからさまにネタっぽいのが揃い過ぎなのが華につくかもしれない。 乱暴な不良ぽいが実は優しい、クールな優等生、ぶっきらぼうな美少女、学校一の天才少女などなど。

それにお互いの呼び方が男→女「○○ちゃん」で女→男「××」(名前呼び捨て)というのが大半なのも私はちょっと気になった。 とはいえ、この初期の西澤保彦的世界はとても面白い。どんな結末を迎えるのか気になるし、文章も癖がなくて読みやすいから サクサクと読み進められる。

中巻になると、この異常な世界観にも慣れ皆それぞれの解決策を模索するようになってくる。 砂上の楼閣ながらも推論を重ねていく様はやはりミステリィの醍醐味と云えるだろう。

ただ気になるのは一人一人の過去話に結構ページを割いているのだが、それがしっかりと 伏線たり得ているのかという事。過去話自体も中々面白く登場人物のキャラクタを味わい深い ものにしてはいるのだが、それだけにしてはちょっと中だるむ。

解決編になってちょっと展開が強引になってきたような気もしたけど、なかなか上手く伏線を回収してる。 テーマにいじめや自殺問題があるので全体として話が暗くなりそうな感じだが、非現実な世界を通しているので 案外淡々としているのも後味が悪くないかも。

とはいえ、途中挿入されているいわゆる「読者への挑戦状」だが、あれはちょっと正解は出せないだろうな。 そこに関しては大した伏線もなかったような気がするし、あの世界で存在すると思われたルールとはちょっと違うかも。

上記の事や、登場人物が多い割にイマイチ生かされてないような部分があるが全体的に文章がきっちりしているし 設定の面白さが先を気にさせるのでかなり満足。もうちょっとエピローグにページを割いてくれたら嬉しかったかも。 一気に時間が経ちすぎてるしね。


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