|
- ■中空
- 角川書店 2001/05/30 初版
- 本体価格 1300円(税別)
- 2001/12/31 記録
|
「はいよ、謹聴謹聴!」
フリーカメラマンの猫田が耳にしたのは、数十年に1度しか咲かないという竹の花が
咲いている場所だった。猫田の友人の鳶山もその話に興味を持ち、竹の花が咲くという
村へ行く事になる。だが、そこは世間との関わりを断絶したいささか時代錯誤な村で
あった。そして竹の花が招いたかのように事件が起きる。
老子が重要なテーマになっているせいか全体的に地味な印象を受けるが、一人称
で語る猫田の軽妙な口調や、連れである鳶山の奇矯な性格などがそんな印象を
持たせない。
「世間と隔絶された村」という設定もありがちに思えるが、前述した老子に関する
粉飾を施すことによりそんなに不自然に感じさせない処も巧い。唯、事件の根幹に
関わるある伏線が割合解りやすいのが残念かもしれない。本来なら猫田の視点で
語られるそれは、読者のそれと重なり、ひいては読者をも引っかける筈だったのだろうが、
流石にあんなにあからさまでは読者の感覚と視点者である猫田との同期が取れないだろう。
実際にはそれらの謎はメインでは無いのだからそれほど気にならなかったのが本当の処だけど。
事件と伝記を巧く融合させ、不自然ではないように見せているのに成功している。キャラクタも
立っているし、文章も読みやすいし、思ったより本格しているしで地味ながら堅実。次回作も
この方面で頑張ってくれるとありがたいかも。
後は、ちょっと鳶山の行動や言動が回りくどすぎるような気もするけど。それに気になる点が1つ。
本編とは関係ないが───
|