魂魄堂 読了書覚書 - 高田崇史 -


■QED 東照宮の怨
講談社ノベルス 2001/01/10 初版
本体価格 840円(税別)
2001/10/04 記録

「しかし、これが真実なんです」

「三十六歌仙絵連続強盗殺人事件」が発生する。その話を小松崎から聞かされた 祟は、小松崎と東照宮へと赴くとそこで偶然奈々と出逢う。そして祟は三十六歌仙絵 と東照宮に興味を持つ。現実の事件には興味を示そうとしない祟をよそに事件は 更に不可解な展開を示す。

最早定番となったシリーズで、今回はタイトル通り「東照宮」がテーマに。結末で明かされる 東照宮に隠された意味や、途中語られる蘊蓄は確かに面白い。

───しかし。

それにしても祟と事件との関わりの薄さが気になる。『六歌仙の暗号』や『ベイカー街の問題』 では、祟が事件に無関心であろうともそれなりに事件の中枢に近い場所に居た。 そのために、祟の意志とは無関係に事件にひきこまれていった形になっていた。

しかし今回は完全に祟と事件とは無関係。何しろ祟と事件関係者とが出逢うのは、最後の 謎解きシーンになってから。それまで祟は小松崎から事件の話を間接的に聞いているだけ なのだ。「安楽椅子探偵」と云えば聞こえは良いが、ページの大半が祟と奈々がバーで呑んでいる だけだし、その話題も事件とは関連性が無い。

余りに事件と蘊蓄部分が乖離しすぎているんじゃないか?
東照宮に関する謎を解き明かした、と云ってもそれは確証の無い推論に過ぎないし、それが 解けた瞬間に殺人事件もあっさり解けてしまうっていうのはどうなんだろうか。特に犯行の動機 に関する部分まで、関係者と逢わずに解ってしまうのはちょっと牽強付会に過ぎるのでは。

私は蘊蓄が苦にならないので作品自体は愉しめたのだが、ミステリィとして小説として読むには ちょっとばかりバランスが悪いように思えて仕方がない。


■QED 式の密室
講談社ノベルス 2002/01/10 初版
本体価格 700円(税別)
2002/02/25 記録

「安倍晴明───」

崇と小松崎の出逢ったきっかけも、ひとつの事件からだった。その事件では密室で 遺体となって発見される。だがその孫の弓削は「式神」を信じており、犯行は 式によって行われたのだと主張する。

まったく私好みのテーマである。式神に陰陽師、そして安倍晴明。今回はもともとが 酒の席での昔話のせいか、いつもより崇の蘊蓄が気にならない。事件そのものに 陰陽道などの呪術的要素が強く働いているのもそれを後押ししているかも知れない。

だけど、純粋にミステリィとしてみるとどうかな。ちょっと推理というより推論になっていそうだし、 崇の推論もかなり牽強付会気味のような気がするのだが。単体としての出来はともかくとして、 シリーズ物として、そしてテーマとしてみると、私はシリーズでも1番面白かったような気がする。

まあ、長編と云うより中編に相応しい話なのかも知れないな、これは。


■試験に出るパズル
講談社ノベルス 2002/09/05 初版
本体価格 880円(税別)
2002/04/21 記録

「やあ、ぴいくん」

メフィストにて連載されている(連作)短編。パズラ、というよりパズルそのものかもしれない。 物理トリックでも心理トリックでもない、いわば論理トリック。ここまで純粋なパズル小説は そうそうないだろう。雑誌掲載時にはなかった、作中のクイズに対する解答が嬉しい。



9番ボールをコーナーへ
饗場が身内の刑事から聞いた情報によると、麻薬取引犯と思われる男が取引直前に 必ずある喫茶店によるという。刑事の話ではそこで取引場所の情報を受け取っている のだというが、男は珈琲を呑んでいくだけでそれらしい素振りを見せないのだという。

最初の話のせいか、前半がちょっと冗長かも。でも読んでいて愉しいので余り気にならないし、 キャラクタを印象づける意味でも必要だったのかもしれないな。メインのパズルはちょっと ひねくれすぎというか、どうして千波がそんな発想に到ったのかにちょっとリアリティがないかも。 それでも最期のオチが巧いためにそれほど重要なファクタでは無くなっているので、確信的 なのかな。



My Fair Rainy Day
例によって3人で行動中、昼食を摂る事になりあるホテルのバイキングへと向かう。 そこには18人ものおばさんも食事をしていたのだが、突然その1人が黒真珠の指輪から 宝石が無くなっていると騒ぎ始める。その場の人間全員で捜索するが黒真珠は見つからない。

一見論理的な展開のような気もするけど。


これがどうしても気になってしかたがない。



クリスマスは特別な日
毎月のように連続爆弾魔が事件を起こす。千波は事件の起きた日にちと時間、そして爆破された 場所にも法則性があるのだと主張する。 直球過ぎ。パズラ部分は悪くないが、それだけに突出しすぎているのでこれだと単純にクイズ本 みたいになってしまう。小説である事の意義が感じられなくなるところだったが、最期の独白に よって何とか救われた部分がある。これが無かったら小説として成立しなくなるところだった。



誰かがカレーを焦がした
千波の自宅に泊まりがけで饗場と「ぼく」と「ぼく」の妹が遊びにいく。そこで夕食にカレーを創り、 そこに居たメンバが1時間交代で火を通す事にしたのだが、実際出来上がってみると誰かが カレーを焦がしてしまっていた。果たして誰が。

これはパズラではないかな。ちょっとしたユーモア小説といったところか。伏線らしい部分はいくつか あるものの、これを論理的に説明するのは無理だろう。実際に現場に居たならともかく、 読者の立場では・・・・・・でもまあたまにはこんな展開も悪くはない。



夏休み、または避暑地の怪
夏休みに田舎に避暑を兼ねて遊びに行くと、そこで老人の制止を聞かずに西瓜を抱えて 走り去る少年に出くわす。少年を追ってある寺に辿りついたのだが、そこで少年の足取りを 見失う。

パズラとしての出来はかなり秀逸。パズル部分がプロットと巧く合致しているし、何故か 怪しげな設定をすんなりと受け入れてしまう。何より会話部分が重要なので、どんな 細かい言葉もうっかりと聞き流せない。問題を解くだけならもっと美しくない方法があるが、 それを如何に美しく展開させるかが重要で、それをしっかりとクリアしている。


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