魂魄堂 読了書覚書 - 殊能将之 -


■黒い仏
講談社ノベルス 2001/01/10 初版
本体価格 760円(税別)
2001/09/30 記録

「世迷い言を言うな、星慧」

前作『美濃牛』に登場した探偵、石動戯作の許にある依頼が舞い込む。 9世紀に天台僧が唐から持ち帰ろうとした秘宝が、ある寺に秘匿されているのだという。 それを発見する為に現地へと飛んだが、一方ある安アパートで死んだ男の調査の為に 警察が石動の居る土地に現れる。これらの事件はどう絡んでくるのだろうか?

うーん・・・・・・
完全に裏ミステリィを狙っているとしか思えない展開だ。やりたい事は解るし、ある程度 成功していると思う。しかしこんな設定を持ち出してやった事があれだけではサプライズ が全然引き立たない。もっとこう、驚天動地の展開を見せてくれればまだしも。

しかもそれまでの展開がつまらない。石動はひたすら古文書を解き明かそうと呻吟している だけだし、警察は警察で普通の聞き込み調査と来る。この本自体そんなに厚くないのに 展開が遅々として進まない。

なんか意味ありげな描写が続くな、と思っていたらコレだもの。そりゃ殆どの読者は「はぁ?」 ってなりなすがな。少なくとも「おおっ!」とはなるまい。目的に対して手段が大げさすぎ。 悟空の獣人化を止めるのに、尻尾を斬れば良い処を月そのものを破壊してしまうが如く。

・・・・・・それにしてもさ。



■鏡の中は日曜日
講談社ノベルス 2001/12/05 初版
本体価格 820円(税別)
2002/03/08 記録

「名探偵の血が騒ぐ、ってわけかね?」

石動戯作は、現実の事件を元に書かれたある推理小説の実際の事件に関して 再調査の依頼を受ける。その事件を描いた小説は途中まで連載されたものの、 何年経っても1冊の本にはならずに未完のままであった。石動は現実に起きた 事件を追う事になる。

前作でこのシリーズ全体に対する不安感が拭えなかったが、そんな事は全くの 杞憂でしかない事を思い知らされた。プロットが少し込み入っていて、序盤は 話についていくのがやっとだったけど、なるほどこういう仕掛けだったのか。

伏線は全編に張り巡らされているのに、それをたった1点の為に惜しげもなく 費やしているのが素晴らしい。プロット全体のトリックも素晴らしいが、作中作 とも云える、過去に起きた事件に対してもプロットと絡み合いつつも、また 新たなトリックを見せている。

アクロバティックでありながら、きっちりとフェアで、それでいたすっきりと騙してくれた。 まったくと云って良いほど無駄がないし、冗長に感じる部分もなくとても上質の ミステリィといえるだろう。


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