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- ■奪取(上下)
- 講談社文庫 2000/03/14 3版・1999/05/15 初版
- 本体価格 714円(税別)
- 2001/10/20 記録
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「そう───偽札を造って、な」
友人がやくざに騙されるように作ってしまった借金を返すため、道郎は偽金を
作る。だが偽金を作った事がやくざに発覚し、その技術と原版をを狙われる事に
なってしまう。やがて道郎は「完璧な偽金」を作る魅力に取り憑かれてしまう。
クライムノベルでありながら、全く暗くならない展開が凄い。犯罪だと解っているのに
飽くなき野望に挑戦し続ける主人公にすっかり魅せられてしまう。物語の展開も
起伏が巧く、次々と障害が待ち受けている。
キャラクタも魅力溢れていて、誰も彼もが海千山千の一筋縄ではいかない奴らばかり。
そんな中、純粋にもはや一種の芸術の域まで達している偽金造りに没頭する主人公。
偽金造りという静かなる作業がテーマなはずなのに、この圧倒的なスピード感はどうした
事だろうか。その辺のサスペンスなど足許に及ばないほどの隙のないプロットなのである。
偽金造りのプロセスや障害も、実際はどうか解らないものの、作中ではとてもリアリティに
溢れ「フィクションの中のフィクション(偽金)」をしっかりと構築している。
しかし唯一残念なのが、ラストの落とし方である。これではそれまでの行動がすべて
無駄になるというか嘘臭くなってしまう。折角創り上げたリアリティを自ら放棄するような
展開にしばし脱力せずにはいられなかった。
これさえなければ、かなりの秀作だったのに。
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