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- ■上高地の切り裂きジャック
- 原書房 2003/03/20 初版
- 本体価格 1600円(税別)
- 2007/02/20 記録
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「幽霊に会わせましょう内海さん」
中編2作収録。御手洗がまだ馬車道に居る頃と、すでに海外に移住している頃となっている。
上高地の切り裂きジャック
それほど知名度の高くない女優がロケ先の上高地で他殺屍体となって発見される。彼女は死後レイプされた
上に内蔵の一部を切り取られていた。
表題作。
タイトル通りの屍体にまつわる謎がメイン。御手洗が居ないのでしばらくは石岡君と里美が事件の進行役に
なっているのだが、それにしても里美が居るときの石岡君はもうどうしようもないな…。単に嫉妬深いだけの
妄想癖のあるおっさんでしかない。
「石岡君のダメワトスンぶりに絶望した!」
といった感じ。トリックも無理矢理感と偶然が強くイマイチすっきりしない。それなりに知名度のある人物の
猟奇殺人事件の割に警察の捜査が杜撰にしか思えないのも要因かもしれない。そもそも犯人も緻密な計画を
持っていた訳ではない感じなので、警察側が勝手に勘違いした結果のミステリィという感じか。
完全にタイトル負けしてるし、御手洗が出てくる必要性も感じない。
山手の幽霊
まだ馬車道に住んでいる御手洗の元に知り合いの刑事が訪れる。彼の口から語られる奇妙な謎。居ないはずの
場所に居る男が、居てはいけない場所にも存在する。そしてある主婦から依頼されたもう1つの奇妙な謎。
終電車に現れた女の幽霊。
これは表題作とは比べものにならないくらい面白い。奇妙な謎に畳みかけるように訪れるもう1つの謎。
どちらも一見すると物理的に無理としか思えず、それぞれがどう関わっているのかも皆目見当が付かない。
例によって奇妙な行動を繰り返す御手洗が導き出した答えが謎という名の闇に文字通り光明をもたらした。
物理的にありえないはずの事をほんのちょっとした事から紐解いていく御手洗の巧妙さは相変わらず。
そしてまだ里美が居ない石岡君はやっぱり僕らの石岡君だった。ひたすら流され訳も解らず御手洗に
付いてくる。彼ほどの狂言廻しはそうそう居ない。
奇妙すぎる謎が解決された後の物悲しくも美しい展開がまた素晴らしい。破天荒な御手洗には何故かこういう
しんみりとした物語がよく似合う。ある意味蛇足に思われるようなモノローグに思わずため息がでる。
中編という長さにこれだけの謎を盛り込んで、なおかつ物語としてもしっかり構築されているのはもう
文句の付けようが無いだろう。最近のキャラクタ偏重ミステリィに見習って欲しいものだ。
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