魂魄堂 読了書覚書 - 斎藤肇 -


■夏の死
講談社ノベルス 1991/08/05 初版
本体価格 720円
2001/11/05 記録

「おれが誰だってお訊ねですか?」

5年前の夏、ビデオ映像研究会のヒロイン役がベランダから転落して死んだ。当時は 事故だと思っていたが、5年後の今、死んだ彼女の恋人だった男が彼女の命日に 当時のメンバを集め「ゲームをしよう」と云いだした。

TRPGが主題となり「作中作」ならぬ「作中ゲーム」はとても奇妙な感じを受ける。 だが作者の狙いは成功しているだろうか。確かに伏線としては問題ないものの、 これではTRPGを行った意味が無いのではないだろうか。しかしじっくりと読んでいくと、 あながちそうでも無い事が解る。しかしそれでもこのゲーム自体に意味を見出す事が 出来ず、小説として見た場合無駄な描写が占める割合が多すぎやしないだろうか。

キャラクタは全体的に地味ながら、それぞれ特徴がある。ここで注目されるのは探偵役 の存在だろう。ミステリィにおいて忘れる事の出来ない存在、それが探偵役なのだ。 当然本書にもそれに相当するキャラクタは存在する。だが、彼に与えられたのは 単純な推理役では無かった。本来作者の敵、物語を打破するはずの探偵が ここでは物語そのものに組み込まれてしまっている。作者は私たち読者を容易に 物語から逃がす気は無いらしい。

最期に明かされる真相に、あるいは脱力してしまうやもしれない。しかし本作は 単純なフーダニットやハウダニットに目的を置いていないのは明らかである。


■盗まれた死角
トクマノベルス 1990/10/31 初版
本体価格 720円
2002/02/23 記録

「コーシーですね」

日本であって日本でないパラレルワールド。ここでは司法機関、即ち警察が存在せず、 事件はすべて一般的職業となっている「名探偵」に委ねられていた。そしてその名探偵 の中でも比較的小さな事務所に事件発生の一報が入った。

設定としては「キッドピストルズシリーズ」や「コズミックシリーズ」に類しているが、時代的に 本作の方が先駆者だろう。当初はどうも地味でちぐはぐな印象を受けてしまった。というのも、 全体的に華が無い割に、無理矢理登場人物に個性付けをしているようでどことなく 居心地が悪かったからである。

しかし読んでいる内に、そのプロットの精緻さに驚愕させられる。ただ、やはり聞き込みが メインになったりして視点もばらけてしまっているだけに落ち着かない印象は拭えない。 伏線は巧みだがもう少しあちこちに張ってても良かった気もする。流石にあれだけの 伏線からこの結論を導き出すのは難しいのでは・・・・・・

ラストは良い感じ。


■たったひとつの
原書房 2001/09/14 初版
本体価格 720円
2002/03/31 記録
(リンク先はハードカバー版)

「さあ、私の話はここまでだ」

連作短編集。といっても、一見すると各話が繋がっているようには思えない。共通するのは 本書のサブタイトル「浦川氏の事件簿」の通りに、必ず浦川という人物が登場してくること だけ。それも話によって、年長だったり赤ちゃんだったりとなんだかよく解らない扱いになっている。

ひとつひとつの話を読んでみても、どれもこれも推論の重ね合わせでしかなく、決定的な 論理に基づいているようには見えない。話は面白いのだが、その辺りがもどかしくて何だか 落ち着かないのだ。

だがそんな印象も後半になってくると、ふと作者の思惑に気がついてくる。何か仕掛けがある のは「口上」を読めば解る事だが、その思惑に対する疑念がどんどん膨らんでいって・・・・・・

なるほど、こういう事だったのか。

確かにこれは面白い仕掛けだな。んー、でもちょっとインパクトにかけるような。もっと 驚かせてくれる趣向でも良かったかも。


■思い通りにエンドマーク
講談社ノベルス 1988/06/05 初版
本体価格 700円
2003/01/14 記録

「俺は安楽椅子探偵なのだ」

ミステリィマニアの大垣がうっかり入ったテニスサークルの知人に誘われて、夏休みに 合宿にいった先は吊り橋を渡った断崖に断つ洞洛館と呼ばれる奇妙な館だった。 そして吊り橋が落とされ密室となった館で連続殺人が始動してしまう。



名探偵「陣内龍二郎」シリーズ第1弾。一見シンプルなミステリィに思えるが、 かなり実験的な作品。しかし奇をてらうことなく「名探偵とは?本格ミステリィとは?」 と訴えかけてくる。

しかも物語と関係なくキャラクタが話し出すという事もなく、あくまでミステリィの トリックと絡める事によって物語との一体感、必然としてみせてくれる。読み始めて いきなり屍体がでてくるし、ページ数も多くないので内容は薄そうに思えるが、 それは無駄を一切省いた結果なのである。

型破りのようでいて王道を追求しているようでもある。


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