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- ■夏の死
- 講談社ノベルス 1991/08/05 初版
- 本体価格 720円
- 2001/11/05 記録
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「おれが誰だってお訊ねですか?」
5年前の夏、ビデオ映像研究会のヒロイン役がベランダから転落して死んだ。当時は
事故だと思っていたが、5年後の今、死んだ彼女の恋人だった男が彼女の命日に
当時のメンバを集め「ゲームをしよう」と云いだした。
TRPGが主題となり「作中作」ならぬ「作中ゲーム」はとても奇妙な感じを受ける。
だが作者の狙いは成功しているだろうか。確かに伏線としては問題ないものの、
これではTRPGを行った意味が無いのではないだろうか。しかしじっくりと読んでいくと、
あながちそうでも無い事が解る。しかしそれでもこのゲーム自体に意味を見出す事が
出来ず、小説として見た場合無駄な描写が占める割合が多すぎやしないだろうか。
キャラクタは全体的に地味ながら、それぞれ特徴がある。ここで注目されるのは探偵役
の存在だろう。ミステリィにおいて忘れる事の出来ない存在、それが探偵役なのだ。
当然本書にもそれに相当するキャラクタは存在する。だが、彼に与えられたのは
単純な推理役では無かった。本来作者の敵、物語を打破するはずの探偵が
ここでは物語そのものに組み込まれてしまっている。作者は私たち読者を容易に
物語から逃がす気は無いらしい。
最期に明かされる真相に、あるいは脱力してしまうやもしれない。しかし本作は
単純なフーダニットやハウダニットに目的を置いていないのは明らかである。
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