魂魄堂 読了書覚書 - 折原一 -


■耳すます部屋
講談社 2000/02/15 初版
本体価格 1700円(税別)
2001/09/04 記録

「刑事さん、わたし、罪にならないでしょう?」

折原作品と云えば、一部のシリーズを除いて例のトリックが使われている事で有名。 この短編集も勿論・・・・・・今更ネタバレにはならないよなあ、この人の場合。それを たっぷり味わう為にも各短編の書評から梗概を割愛しております。

耳すます部屋
終盤まで来ると、にやりとさせられる。トリックに対する伏線が随所に張り巡らされているのが 解るし、この人がこのトリックを仕掛けてくるのも重々承知の上で面白い。一部、露骨すぎる 部分もあるものの、折原作品の典型とも云える作品。

五重像
これはなかなかトリックが解りにくいかも。プロットがなかなか捻られていて、先が読めず素直に 愉しめた。短編としてもかなり短いですが、ラストの落とし方は秀逸です。

のぞいた顔
これはちょっと、なあ。狙いは解らなくもないが、このトリックを使うとプロットが死んでしまうような。 さくさく読めるのはいいのだけど、露骨過ぎかも。ラストも平凡。

真夏の誘拐者
これはプロットが秀逸。例のトリックとの相性も良いし、例のトリックの控除した普通のミステリィ としてもかなりの出来なのではないだろうか。伏線もなかなか自然だったし。

肝だめし
これはちょっと評価低い。登場人物の設定が容易に伏線を暗示している。いくら短いとはいえ、 最初の1ページ読んだだけで、全部読めてしまうのは安直としかいいようがない。

眠れない夜のために
展開は面白いかな。例のトリックとしてはちょっと弱いかもしれないけど、巧くプロットがフォローしている のではないだろうか。サイコホラーとしても十分の出来なんだけど、最後はちょっとくどかったかも。あ、でも そうでもないか・・・

Mの犯罪
相変わらず、深"そう"なテーマが巧いです。普通に面白い。例のトリックは無いですが、残念なのは 伏線が存在しない事か。どちらかというとサスペンス的な感じ。でもこのラストはないだろー

誤解
だから無意味にテーマが重いって。狙いは面白いけど、ちょっとページ数が足りないか。伏線が すかすかで一足飛びに結末に飛びついてしまっている。急ぎ足なのが残念だ。

ちょっと解りづらいかも知れないが、なかなか秀逸。この短さでこれだけ展開をひっくり返してくれるのは 悪くない。たった一行、ある言葉があるお陰で物語性が飛躍している。巧い。

目撃者
うん、ラストは悪くないけどちょっと回りくどいかも。物語としての着地のさせ方は平凡と云えば平凡だが 余韻が悪くない。

総評
メモ書き程度に留まったのは、やはりこの作家の作品上しかたないかもしれない。全体を振り返ると 小粒ながらもそつがない、といった感じ。秀作があるわけでもないが、その分平均的に安定しているような。 初めて読む分には愉しめそうなのですが。慣れている人には、やや物足りないと思われます。


■失踪者
文藝春秋 1998/11/10 初版
本体価格 2095円(税別)
2002/03/22 記録

「ああ、俺がやったのさ」

ある女性が殺された現場の近くで、15年前に連続して失踪した女性達の白骨が 発見される。そして現場には「ユダの息子」というメッセージが。そして15年前の事件当時 にも「ユダ」というメッセージが遺されていた。そして未成年の少年が逮捕される。この 事件に興味を抱いたノンフィクションライタが事件を調査し始めた。

ストレートに折原作品。解っていても騙される。薄々は気が付いていても、細かい 伏線が素晴らしいお陰でやはりラストへの着地の仕方は素晴らしい。今回は15年と いう時間の流れもあって、気が付くと時系列を取り違えてしまう程にプロットが入り組んでいる。 しかし流石にアンフェアな事はなく、よくよく読んでみれば事実しか語っていない事が 解る。

だからこそ折原一と云う作家に脱帽せざるを得ない。叙述トリックはプロットだけでなく、 地の文ですら作品の骨組みのひとつなのだ。特に人名や地名といった固有名詞などの 表現には気を配る。そしてそれを不自然ではないように見せる手腕はまさに一流。 鍵となる文章を堂々と読者の前に出し、そして文章を紡いだのが「折原一」であると 知らしめて、なおかつ騙してくれる。

総てを読了して、それまで語られてきた物語が一気に別の物語に再構築されるのだ。 それは二重螺旋のように美しい組成をしているに違いない。


■誘拐者
東京創元社 1995/08/31 初版
本体価格 1900円
2002/04/02 記録

「まだ死ねないんだ」

あるカメラマンが偶然撮ったスクープ写真の背景にとある男女が偶然映っていた。 そしてある日、カメラマンの元に、そこに映っている男性は消息不明の自分の夫で ずっと探していたのだ、という手紙が届く。

相変わらずこの作者の作品の梗概は書きにくい。
例のトリックに関しては、今回に関してはちょっと弱い気もする。普通に考えても ありえるような事だし。とはいえ簡単にはわからないし、今回の白眉はメイントリック に使われたものじゃなくて、その周辺に関してなのかも。

小道具やちょっとした名前にすら例のトリックの断片を潜ませており、メイントリックが 解ったとしても作者の細かい心遣いが伝わってくる。それに加え、普通のサスペンス としても上質の出来であり、そのプロットだけで面白いのだ。

それでも、やはりメイントリック部分が弱い為にラストはちょっと、かも。


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