魂魄堂 読了書覚書 - 中町信 -


■十四年目の復讐
講談社ノベルス 1997/08/05 初版
本体価格 1200円(税別)
2002/04/19 記録

「なにか、にぎりますか?」

病魔に冒され死を待つばかりの男が自殺を図る。男は何者かに脅迫状を送られていた。 脅迫状には男が中学生時代に関わったある事件について書かれており、その脅迫状は その事件の関係者に送られ、死の制裁を仄めかすものであった。そして実際、脅迫状を 送られた関係者が次々と不可解な死を遂げる。



読み終わってみると、プロットもしっかりしていて密室やアリバイ、謎のメッセージなど 豊富なギミックが揃っているのが解る。しかしどうも読みづらい。というのも、同じ関係者に 別々の探偵役が情報を聞いているせいで、読者にしてみたらさっき読んで知っている 情報を2度繰り返したり、誰がどこまで知っているのか解りづらい部分があるからだ。

ある事件を別々の探偵が同時に捜査を始める、という設定は良いが、会話や事情聴取が 重なる部分は巧く流して欲しかった。読者の立場としては無駄にページ数が費やされている ように思う。

それと問題なのが、警察関係者も含めてどうも推論の域を出ていないのにも関わらず 何も検証する事無く「それに違いない」とあっさりと解決したつもりになっている処だ。 刑事が直接関与しているし、これだけトリックを豊富に盛り込んでおきながら解決編の 醍醐味をあまり味わえないのも勿体ない。

全体的にアクロバティックな処がなく、良く云えば堅実、悪く云えば地味だがプロットが しっかりしているので十分に愉しめる。だけども前述の通り少し無駄がありすぎるので 読み疲れてしまうのがやはり厳しいかも。会話シーンが多いのでさくさく読める反面、 ちょっとプロットが薄まってしまったかな。


■錯誤のブレーキ
講談社ノベルス 2000/06/05 初版
本体価格 980円(税別)
2002/04/28 記録

「そのリャンピンってドラでしたね」

ある居酒屋の店主が雨の降る夜、知人の女性二人と男一人を自分の車に 乗せて帰路についた。だがその途中事故を起こし、店主は死亡し同乗者も 意識不明となる。店主の運転ミスと思われたが、その後この事故を契機にして 連続殺人事件が発生してしまう。



和南条夫婦シリーズ。密室あり謎のメモあり、ダイイングメッセージありと 盛りだくさん。プロットもなかなかで、作者得意の人間関係の妙がやはり 秀逸。

全体的に会話シーンが多いため、読みやすいがその分状況が解りにくかったり するのはちょっとバランスが悪いかも。とはいえ、決して派手ではないのにも 関わらず飽きさせる事無くさくさく読ませる筆力は見逃せない。でもちょっと キャラクタの存在感が薄いような。結構付き合いのある親戚が亡くなった 割にはちょっと態度がドライ過ぎるような気もする。

それと気になるのが、ちょっと論理的に弱いように思える点。何も証拠至上主義 ではないのだが、余りに机上の推論で進められるのはどうかと思う。せめて抑止力 として刑事くらいは証拠を重要視してくれても良さそうなのだが、この刑事自ら 物的証拠が虚弱な説を打ち出して決めつけるというのは・・・・・・

推論を裏付けるように証拠を求めるような展開もあったのだが、それが証明されても イコール犯人である事にはならないだろうし。もう少し犯人側に粘りが欲しかった。

しかしながらプロットが巧いので余り気にならなかったりもするのだけど。

・・・・・・自動車教習所に思い入れでもあるのだろうか?


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