魂魄堂 読了書覚書 - 森博嗣 -


■魔剣天翔
講談社ノベルス 2000/09/05 初版
本体価格 840円(税別)
2001/07/06 記録

「僕じゃあ、信じてもらえないでしょう?」

飛んでいる最中の飛行機の後部座席で男が殺された。だが後部座席に座っていた 男の背中から撃たれていたのだ。アクロバットショーと云う衆人環視の中で完全な 密室が成立する。

更には事前に送られてきた謎の脅迫状や死んだ男が遺したと思われるメッセージ などケレンたっぷりの趣向になっている。文章はあいかわらず怜悧でクール。やはり この独特の言い回しや間を好きになれるかどうかで評価が変わってくる、ある意味 トリックなどに評価が左右されにくい珍しい作家なのかも知れない。

だからと云ってトリックがお粗末では話にならないのだが、今回はきわどい処を巧く 処理しているかな。トリック自体はあまりに縛りがきつすぎてある程度の想像がついて しまうだろう。代わり、と云うのもおかしいが暗合部分に関しては伏線も含めて 良くできているように思えた。まあ読者が解けるかどうかは別にして。

全体的に話の展開が遅いように思えるのもいつもの事だし、シリーズ通して読んでいる 人には気にならないだろう。珍しくミスリードに力が入っている良作なのではなかろうか。

「おまえは次に『どうして解ったのか?』と云う」
「どうして解ったの?・・・・・・あっ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ。


■奥様はネットワーカ
講談社ノベルス 2005/01/10 初版
本体価格 800円(税別)
2006/01/30 記録

「そうか。コンピュータの中なんだ」

某国立大学にて傷害事件が発生する。平和な研究室を騒がせた事件が解決しない 内に更なる事件が発生。事件に巻き込まれた教授や助手、秘書たちの視点で事件を 追っていくのだが…



もともと雑誌で連載していたせいもあるのか文章の区切りが面白い。登場人物たちの 視点で物語が進んでいくのだが、その視点が細かくザッピングされているのだ。
そのせいもあって元々淡白な文章がよりすっきりとして読みやすくなっている。 一人称視点の場合は周りの風景描写などは余り語られない。そういう意味では徹底的に 無駄を省いているし、一人一人のパートが短く時系列も厳密ではないために読みダレる ということはないだろう。

ミステリィとしては…やや微妙な気がする。もっとも文章が読みやすい、という事 自体が一種のレトリックになっているのかも知れないが。伏線としてはごくごく薄い もので、決定的だと思えるような伏線は無いように思える。
雑誌連載時は犯人当ての意見を載せたりしていたようだが「読者への挑戦状」みたいな かっちりした推理はできないような気がする。

「空条Q太郎?」
「俺はコロンボのファンでね」


読了書覚書目録へ