魂魄堂 読了書覚書 - 篠田真由美 -


■センティメンタル・ブルー
講談社ノベルス 2001/06/05 初版
本体価格 1000円(税別)
2002/03/05 記録

「ボクの名前、蒼っていうんだ」

「建築探偵シリーズ」の外伝的短編集。京介は殆ど出てこなくて、メインはワトスン役だった 蒼が主人公になっている。各短編によって時系列はばらばらで、本編を読んでいる必要が ないというのも嬉しい心配りだろう。

本来なら各短編ごとに書評といきたい処だけど、この短編集はミステリィでありながらそのテーマは そこにはないように思う。寧ろミステリィ的プロットが物語性を阻害している(部分がある)と 云っても良いかも知れない。

確かに本編を全く知らなくても、ストーリィ上は問題ないけど、主役である「蒼」を知ってから 読んで欲しい。タイトル通り、とても切なくて透明感のある物語が詰まっているから。過去のシリーズ を既読の人には絶対お勧めの1冊となるのは間違いない。

それにしてもこのシリーズは世界観や歴史などがしっかり構築されている。リアルタイムで 時間の流れを感じさせてくれる希有なシリーズだろう。


■龍の黙示録
ノンノベル 2001/04/10 初版
本体価格 876円(税別)
2002/03/27 記録

「気は済みましたか?」

職を喪い、求職活動をする透子に秘書の仕事が舞い込んできた。雇主は龍というなの 著述家であり、オカルト分野では有名だという。だが、全く同姓同名の人物が明治期に 存在する事から、彼を「吸血鬼」だと云う者もいる。

伝記アクションに深いテーマを結びつけており、徐々に解き明かされてくる謎に引き込まれる。 一見ありがちな吸血鬼ものもモティーフにしつつ、ここまで世界観を広げて構築するのは 作者の取材力と構成力に脱帽する。

一応完結はしているものの、物語はまだまだ長く遠くなりそうで、もし続編が書かれるのだと したら期待したい処である。しかし、キャラクタがちょっと薄いというか、ステロタイプというか、 何だかイマイチ癖がないのである。アクションシーンも少し物足りなく、龍の超人的能力も なんだか凄く思えない。

テーマとプロットが非常に良くできているので、キャラクタとアクションシーンをもう少し盛り上げて くれると牽引力が増すと思うのだが。それかテーマ中心に話を進めたいのならば、いっそ アクションを無くしてしまうというのもアリかもしれない。


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