魂魄堂 読了書覚書 - 牧野修 -


■忌まわしい匣
集英社 1999/11/30 初版
本体価格 1900円(税別)
2002/01/24 記録

「夕飯にしましょうか」

ホラーショートショート集というか、ホラーオムニバスというか。ホラーなので 個別に書評は書かないけど、雰囲気は悪くない。話が短いせいか、日常の 部分があっさりと非日常に取り込まれてしまうのがちょっと勿体ないような 気もするが、それもスピーディな展開だと考えれば悪くないのかも知れない。

面白いのは、序盤に示される日常の部分が、実は全然日常的では無い 処だ。匣を開けた瞬間から、何かがいびつである事に気が付く。中盤から そんな「いびつな日常」を受け入れてしまっている自分に気が付く。

ひたひたと忍び寄るようなホラーではなく、かといってスーパーナチュラルでもなく、 当然モダンホラーなどでもない。これは電波ホラーだ。日常を非日常、いや 非常識の世界に一気にトリップさせてしまい、それを自然に思わせる展開は すばらしい。

これで閑話休題的な部分がもっと創りこんであったら最高なのに。


■呪禁官
ノンノベル 2001/09/10 初版
本体価格 848円(税別)
2002/02/24 記録

「俺を一人にしないでくれ〜!」

呪術、魔法、奇跡などが公式に認められ「呪禁官」なる専門捜査官が設置された時代。 逆に科学の権威は失墜し、科学者数理学者はかつての宗教団体のような扱いを受ける。 そんな中呪禁官養成学校で事件が発生する。

設定が面白い。魔法と科学が混在する世界というのは、それほど目新しいものではないが、 魔法と科学の立場が逆転してしまうというのはそうそうないような気がする。呪術に関しても それなりに調べてあるし、かといって変にマニアックすぎたりはしない。文章の読みやすいし、 キャラクタも面白い。

ただ前半が少し冗長なのと、科学主義者の物語への介入がいささか不自然だった事が 勿体ない。複数のプロットが収斂したかに見えて、その実科学者サイドのプロットがメインの プロットにあっさりと吸収されてしまっただけのような気がするのだ。もう少し科学的なアプローチ があっても良かった気がする。

それにラスボスの敗因が不明瞭で、何だか釈然としない。あれだけ派手に暴れておいて さっさと敗北してしまっては全然締まらないじゃないか。

世界観の設定は面白く、しっかりと構築されているので続編を期待したいところだ。


■病の世紀
徳間書店 2000/08/31 初版
本体価格 1600円(税別)
2002/04/22 記録

「茹でてからの方が簡単かもね」

刑事の毛利はある不可思議な事件に遭遇し、先輩刑事の薦めにより国立予防医学研究所 に行く。不可思議な事件とはいわゆる人体自然発火現象だったのだが、研究所の人間に よるとある病原菌の仕業なのだという。



長編ではあるが、章ごとに話がうまく区切れているので連作短編と云えなくもない。 一応長編として読んでみたが、設定がユニークだ。カテゴリとしてはバイオホラーとでも いうのだろうか。といってもホラー要素は余りないし、どちらかというとSFなのかも。

短編として各事件を追っていく分にはかなり愉しめるのだが、逆に長編としてみると プロットがベタ過ぎるように思う。「神とは、そして人間とは?」といったテーマに対する 解答も目新しさは無く、折角の設定を生かし切っていない。

個人的にはこの設定で短編シリーズとして連載してくれた方が面白かったように思う。 それだけにプロットとテーマが乖離してしまったような本作品のみで終わらせてしまうのは 勿体ない世界観なのだ。


■呪禁局特別捜査官ルーキー
ノン・ノベル 2003/05/20 初版
本体価格 838円(税別)
2006/04/02 記録

「メガトンファイヤー!」

世界初の霊的発電所の周辺で頻発する呪的災害。それを捜査する呪禁官の新人、歯車創作と 先輩である龍頭麗香だったが龍頭が殺され事件の背後にサイコムウと名乗る男が関わっている 事を知る。同時期に科学武装宗教団体が科学の復権を唱え、呪禁官に挑戦してくる。



呪禁官シリーズの2作目。前作の舞台から時間が経っているせいもあるし、読んだのも4年ぶり ということもあり登場人物相関が思い出せないことがあった。呪禁官・サイコムウ・科学教団の 関係性は面白いのだが、科学教団の目的の割に行動がちょっと細かすぎるような気がする。

いわゆる「ラスボス」の存在も突飛でそれまでの盛り上がりに割り込んできたような印象が強い。 あれだけいろんな意味で期待してた化学教団もあっさり瓦解するし、ラスボスでありながら 他の敵と比べるとそんなに強い印象はないのが惜しいところだろうか。最終決戦はもっと ドタバタしてもいいような気がする。


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