魂魄堂 読了書覚書 - 黒武洋 -


■そして粛清の扉を
新潮社 2001/01/25 初版
本体価格 1500円(税別)
2002/02/27 記録

「・・・・・・そう・・・・・・それは残念だったわねぇ・・・・・・」

ある高校に長年勤務する中年女性教師。彼女の担当するクラスは最悪のおちこぼれや 無法者が集まっていた。卒業式を明日に控えた教室に現れた教師は、ある決意を秘めて 教壇に立つ。彼女は銃とナイフを巧みに操り生徒達を教室に隷属させ、一人一人殺めて いったのだ。

「第一回ホラーサスペンス大賞」受賞作。学生の大量虐殺という展開上、『バトルロワイヤル』 と比較される事が多いけど、内容は全く異なっている。向こうが派手なお祭りであるならば、 こちらはサスペンス大賞だけに、リアリティに溢れるシミュレーションだろうか。

派手なプロットに目を奪われがちながら、物語運びも巧くスピード感のある筆運びには 瞠目させられる。警察とのやりとりなども臨場感があり、随所に見られる伏線は物語の 厚みを増すことに成功している。

教師のですます調の口調や、意外すぎる戦闘能力、その捌けた性格などキャラクタの 造形も見事なのだが、その逆に学生の個性が埋没しているのが残念だ。もう少し学生側も 派手な行動を起こして欲しかった処。

何よりページ数が少なすぎる。そのせいで、学生が単に殺されてしまっているだけの 役割に思えてしまう。籠城しているからしかたないにせよ、もっと豊富でマニアックな武器を 用いて教師とのギャップを浮き彫りにしてくれれば、もっとアンバランスで面白かったように 思う。

それにラストの展開にもちょっと不満が残る。あんな尾を引く終わり方ではなく、しっかりと 物語を閉じて欲しかった。そのせいか本作では語りきれなかった謎があるわけで、それも 含めてもっとページが欲しかった。

もっともっと読み続けていたい、終わるのが勿体ない、そう思わせる秀作でした。


■メロス・レヴェル
幻冬舎 2002/02/10 初版
本体価格 1600円(税別)
2002/05/02 記録

「みっともないぞ。泣くな」

近未来の日本。ネットワークが進化し、人間関係が希薄になっていた。出生率の低下 などの影響を重要視した政府が人と人との絆、愛情、信頼関係の回復を計る為に あるイベントを企画する。だが参加者はゲームに負けて脱落するたびに、一生癒えない 傷を負わされ、時には命をも喪うというルールだった。それでも億単位の賞金に惹かれてか、 はたまた名誉のためか、10組の参加者が集うことになった。



ネットが敷衍して在宅勤務が当たり前になって・・・・・・という設定は結構ありがち だけど、それで喪われるであろう人間関係の修復に政府が乗り出すというのは 結構新しいかも。出生率の低下は国家レヴェルで重要な事なのは正しい見識だし。

それに伴う「ファミリー法」などといった制限や家族の監視といったディティールも なんだか荒んだ時代を反映しているようだ。その割に電車がモノレール化してなかったり するのはちょっと科学進化のバランスが悪いようにも思うけど。

で、プロットの中核をなす「メロス・ステージ」だが、ちょっと意図が不明な気がする。 政府公認のイベントであり、一般市民にオープンされ、その目的も明らかなのにも 関わらず、どうもダーティな印象が拭えない。

はっきりいうと、5段階に分かれているステージがどれもこれも子供だましにしか思えない。 少なくとも億単位の賞金と、参加者の命を賭けている内容ではない。ゲーム内容自体も 駆け引きの要素も少ないし、国民投票に関しては参加者の信頼関係とは全く無縁の エレメントでしかない。

だからてっきり政府は表向きの理由の他になにか別の意図をもってゲームを開催した のだと思っていたのだが。正直ひょうしぬけ。設定が斬新で面白かったのに、それを 生かし切れていない。ゲーム自体の整合性というか正当性にも疑問が残る。


読了書覚書目録へ