魂魄堂 読了書覚書 - 黒田研二 -


■硝子細工のマトリョーシカ
講談社ノベルス 2001/07/05 初版
本体価格 940円(税別)
2001/11/11 記録

「ちょっぴりお茶目なレオ君人形」

生放送のテレビドラマ本番中にタレントが毒を呑んでしまう。偽物だったはずの それは本物にすり替えられ、脅迫電話が届く。劇中劇はいつしか現実を侵蝕し、 「完全なる虚構」と「不完全な虚構」が交錯する。

入れ子トリック、という事で余り詳細な梗概は難しい。
話の最初から入れ子トリックである事が解るというのは作者の自信の表れだろうか。 「TVドラマ内ドラマ」なのでその趣向は解りやすいものになっているものの、プロットが 巧妙な為にしっかりと状況を把握しておかないと虚構と現実との境界が朧に沈んでしまう。

一見メタ的な要素が突出して目立つようだが、伏線もしっかりしているし、普通なら おざなりにされそうな「物語」部分に関しても全く無理が生じない。そもそもこのトリック自体 が幾重にも仕込まれているため、読んでいてもどこまでが作中のものでどこからが 読者に向けられているのか解らない。

しかしながらトリックの方向性は結構簡素なので、予想通りの着地を見せるか・・・・・・ と思わせといて。成る程ね、私はすっかり作者の思惑にはまってしまったようだ。 タイトル通り、まさにマトリョーシカの如く、である。ぼんやり読んでると、面白さを 見逃してしまうかも。作者渾身の作品にして入れ子トリックの白眉、と云われても 納得のいく秀作。

しかし、ミステリィ初心者には勧められないだろうな、これ。


■今日を忘れた明日の僕へ
原書房 2002/01/15 初版
本体価格 1600円(税別)
2002/03/04 記録

「───自殺なんです」

事故により、眠ってしまうと起きていた間の記憶を一切喪ってしまう。それは毎日同じ時間に リセットされるようなものだった。眼が醒めると決まって混乱し同じ事を繰り返す。毎日書き続けて きた日記を読み返し、記憶を喪い続けた半年の間に親友が死んでいる事を知る。そして記憶を 喪った筈の脳裏に、死んだ親友の姿がフラッシュバックする。

設定が面白い。寝てしまうと起きている間の記憶を喪ってしまう。その為に起きている間に起きた 事を子細に日記に遺す。ミステリィ的アプローチだけでなく、そんな躯になってしまった男の悲哀が 伝わってくる。

もちろんそれは単なるギミックではなく、メインプロットに大きく関わってくる。後半はちょっと都合の 良すぎる展開の気もしないでもないが、中盤に巻き起こる不可思議性へのアプローチは素晴らしい。 ただプロットは素晴らしいものの、この特殊な状況を完全に利用できているのかというと、若干 疑問が残る。折角の「起きている間だけの記憶」がイマイチ生かされ切っていないのでは、というのは 読者の贅沢な望みだろうか。

もう少し前半で男の一人称からの視点で、交錯する現実を描写して欲しかったかも。それでも 安易に叙述トリックに走らなかった事は評価したい処。最初に思いつきそうな感じだもんね。


白昼蟲―
■白昼蟲
講談社ノベルス 2004/03/05 初版
本体価格 980円(税別)
2007/04/23 記録

「勇気こそが最大のエナジー」

ボロアパートの住人次郎丸は、少し離れた病院の窓から自分のアパートを双眼鏡で見てみた。 すると、見覚えのある後ろ姿がアパートへ消え、もみ合う二つの影。事件を感じ咄嗟に現場に 駆けつけるも、その姿はない。気のせいかと思った矢先、近くの保育園で目撃した人物の屍体が 発見される。



事件の中核の梗概はこんな感じだが、実際はいじめ問題や自殺未遂、家出など、関係者に 次々と事件が降りかかる。それぞれが単独の事柄と思わせつつ、別々の伏線を張り巡らせながら じわじわと事件を収斂させていくのは中々見事。

前述のように全体として暗めの話になりがちだが、主人公や保育園の保育士たちのキャラクタに よって上手くバランスが保たれていて陰鬱な印象はない。事件そのもののトリックはちょっと 小手先な感じだが、プロット全体としての構築はかなり緻密だろう。

主人公の過去、現在起きているいじめ、殺人、複雑な家庭環境。ラストでそれらが一気に繋がっていく のはかなり心地よい。これでトリック自体がもうちょっと凝ってれば…というのは贅沢な話かも知れない。

しかしながら、


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