魂魄堂 読了書覚書 - 霞流一 -


■フォックスの死劇
角川書店 2001/12/20 初版
本体価格 1500円
2002/03/25 記録

「レンジでパンツを?」

探偵紅門は、前に居た探偵事務所から依頼人の紹介を受ける。依頼人は昨年なくなった 有名な映画監督の妻で、その監督の墓に立てられていた卒塔婆が50メートル離れたビルの 屋上、しかもコンクリートを敷いたばかりの処に突き刺さっていたという。そこには当然あるべき 足跡が全くなかったのだという。

導入は多少不可思議ながらも、これといって普通であった。それがだんだんと歪められてきて、 気が付くと複雑なプロットの奥に誘い込まれてしまう。探偵役の紅門が飄々としたキャラで 面白く、なんとなくフロスト警部を彷彿させる。

全体としては面白いのだが、実際に読んでいる時はどうも中心となる事件が無い為に どうも話に集中できない部分が残る。それでもやはり紅門のキャラクタが面白くてミステリィ 部分が濃くなくても十分愉しめるのだが。

後半になって謎が解かれてくると、どうもアラというか牽強付会気味になってくる。余りに 偶然と仮説が重なりすぎて、ちょっと盛りさがるような。やはり最初に提示された謎が弱すぎた のか、謎が解かれても「それで?」と思ってしまう。

まあ、この探偵じゃトリックミステリィには向かないか。


■スティームタイガーの死走
ケイブンシャノベルス 2001/12/20 第2刷
本体価格 800円 + (税)
2002/04/20 記録

「アカムケ様?」

ある会社の最高権力者が幻と云われる蒸気機関車を再現し「虎鉄」と名付けた機関車を 実際の線路で走らせるというセレモニィを行う。だがその当日に出発駅で死体が見つかり、 しかも走行中の虎鉄が線路上に確認できなくなってしまった。



序盤の状況説明が若干冗長に思えなくもないが、中盤からの展開の早さがそれを 補っているようだ。雪の上で途中で途切れた足跡。走行中の蒸気機関車内での 密室事件。機関車自体の消失などなど、ページ数の割にみつしりと多くの謎が 盛り込まれていて豪華。

一見関連無さそうな事柄がきっちりと繋がっていくプロットもなかなかだし、何と云っても キャラクタと文章が軽妙で読んでいてとても愉しい。さくさく読める中にしっかりと伏線が 張られているので見た目の軽妙さに油断すると後で唸る事になるだろう。

そして最期まで読んでみて、ユーモアたっぷりながらも内容が濃いな、と思っていたら とんでもない隠し球が。個人的にはこの展開はどうかな、とも思うのだけど、確かにそれらしい 伏線がしっかり張られていてやっぱり唸らされてしまった。ちょっとご都合主義っぽいけど、 決して多くはないページの中に伏線がみつしりと詰まっているは凄いのである。

しかし、


と思うなあ。


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