魂魄堂 読了書覚書 - 田中啓文-


禍記マガツフミ
徳間書店 2001/04/30 初版
本体価格 1600円 + (税)
2002/03/26 記録

「いえ。皆さん、健康に死んでおられます」

連作短編に「禍記」という枠を付けて、長編ともとれるような形になっている。ホラー作品なので 作品単位の評価は割愛するが、その総てにある共通点が見られる。それは、テーマとなっている 存在がこの現実世界に存在しないこと。妖怪や、天使、あの世であったりする。

ではスーパーナチュラルなホラーなのかというと、そうは云いきれない。オチになる部分がなかなか 捻ったプロットになっているからだ。しかし人によってはそれが興醒めになってしまうかもしれない。 意外性、と云う意味では確かに有効かもしれないが、場合によってはそれまで構築してきた 世界観を根底から破壊してしまう可能性もある。

個人的にはホラー要素がここまで強い話でこういったオチの持って行き方は逆効果なのでは ないかと思うのだけど。


■異形家の食卓
集英社 2000/10/30 初版
本体価格 1800円 + (税)
2002/04/18 記録

「ひひひ久しぶりね、あなた」

「禍記」と同じように、ホラー短編オムニバスを幕間で繋いでいる。とは云うものの幕間と 本編との関係は無いので特別な意味は無いようだ。ホラーなので以下、簡単に感想を メモ程度に遺しておく。

にこやかな男
ストーリィ展開がちょっと読めてしまったのがマイナスかも。鞄に入っていたアレが実は・・・・・・ という持って行き方は悪くはないのだが、ラストがベタ過ぎ。単にスプラッタ描写を書きたかった のではないだろうか。

新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け
タイトル勝ち。
綾辻氏の某作品を更に生々しくしたような印象を受ける。でも最期の辺りの展開に ちょっと不満が残るな。なんだか違う意味で予定調和的と云うか。形骸化しているような 展開をぶちこわして欲しかった。

異形家の食卓1 大根
ショートショートのホラーだし、幕間的な作品だからこれでいいけど。
これって最期の言葉が云いたかっただけだよね?

オヤジノウミ
設定といい物語展開といい、これは面白かった。中途までのスーパーナチュラル的な展開を 巧く裏切って、なおかつホラーな雰囲気を損なっていない。そして完全に崩壊してしまった かに思えたスーパーナチュラルな要素を再構成している点も素晴らしい。

邦夫のことを
意外性に富んだ作品。じっとりと張り付くような怖さに加えて、ラストでのサプライズは 一見ミスマッチのようで、しっくりと噛み合っている。子供が居る、という処にそこはかとない 恐怖感が漂う。

異形家の食卓2 試食品
この異形家シリーズは悪趣味ジョークというか、ホラー風味のブラックジョークというか。 駄洒落系。ホラー名蘇部健一なのか。

三人
SFホラー。今までのスプラッタホラーとはちょっと趣が異なっているかな。それぞれの登場人物からの 視点で現実の歪みを巧く表現している。シチュエイションの選択も巧く、いつ壊れてもおかしくない ような状況で臨場感もある。ラストも秀逸。

怪獣ジウス
設定はベタながら面白かったんだけどな。ラストが牽強付会気味だし、そのせいでホラーと いうよりパニックものだった話がさらにチープになってしまった。もっと徹底的に壊れてしまえば 良かったのに。

俊一と俊二
もっと俊一を壊さないとラストの展開が生きて来ないように感じてしまった。俊一が平凡だと 「ちょっとした不幸だったね」くらいで終わってしまうかも。

異形家の食卓3 げてもの
駄洒落シリーズにしては捻りがあるかな。ちょっと駄洒落がブラック過ぎるような気もしないでもないけど。

塵泉の王
設定とプロットが秀逸。ホラーとしてはすっきりしすぎていて怖さが希釈されてしまっている かもしれないが、最期の1行への持って行き方が巧い。


■ベルゼブブ
徳間書店 2001/11/30 初版
本体価格 1143円 + (税)
2006/07/09 記録

「ベルゼブブよ、御降臨あれ!」

うだつの上がらない考古学者がある遺跡から古い壺を発掘した。そこにはある悪意が 封印されており、考古学者の悪意に反応し始める。それから東京で謎の殺人事件が 頻発し始める。時を同じくして一人の少女が不可解な妊娠をする。その矢先、少女は 殺人事件に遭遇してしまう。



かなり分厚い長編。読み応えがあるか、と思わせるが実際は内容の割にかなり冗長で 物語展開がかなり遅い。なんというか、とにかく「ベタ」の一言に尽きる。散々引っ張って おいて延々と呪詛を書き連ねたりエログロ描写と悲鳴が続く。

基本的にこういうナチュラルホラーものとしては、主人公がこの事態を受け止めて行動 しないと物語が進まないのに、本作は結局最後まで他人事。そのせいで起きる事件に翻弄される だけで物語に盛り上がりが発生しない。

そして何よりラストの展開が最悪。正直このオチを支えるなら短編が限界かな。


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