魂魄堂 読了書覚書 - 椹野道流 -


■壺中の天
講談社ノベルス 2001/06/05 初版
本体価格 800円(税別)
2001/12/17 記録
(リンク先は別出版社からの刊行)

「僕が知るかいな」

ゲーセンで発見された若い女性の遺体。それが搬送中に忽然と姿を消し、 残されたのは腐臭漂う死体収納袋だけ。現場写真も一切残っておらず、 幻の屍体となってしまう。その矢先、法医学学会のメイリングリストに暗号とも とれる奇妙なメイルが投稿される。

最初に断っておきますが、これはミステリィではありません。

シリーズを読んだ事があればお解りだろうが、本シリーズはどちらかというと スーパーナチュラル的なホラー小説に分類されるだろう。その経緯は散々 後書きにて説明されているし、また法医学教室が舞台だからといって本格 ミステリィでなければならない、という事は無い。

しかし冒頭においてこれだけ魅力的な謎を提示しておいて「単純なスーパーナチュラル ホラーだし」っていうのはどうかな、とも思う。何というかミステリィとホラーの 融合が巧く行っていないのだ。法医学教室がメインの舞台だけに仕方ないか とも思うが、それぞれの場面においてミステリィとホラーのどちらかにウェイトが 掛かり過ぎなのである。

その場面だけを取り出してみると、くっきりとミステリィなのかホラーなのか 別れてしまっている。そのくせ、ちょっと場面が変わると、その印象はすっかり 逆転してしまうのだからたちが悪い。

基本的にホラーであるのならば、余り論理を全面に押し出されてもこちらとしては どう対処して良いのか解らないというのが正直な処だろう。どんなに科学的な 根拠、証左を楯にしたとしてもあっさりと「ホラー」と云う名の矛によって 粉砕されてしまう。

ホラーで行く、というプロットが決まっているのだから、もう少し不可思議な 部分を強調して欲しかったような気もする。最期だけサプライズさせれば良いと いうものでもないのだから。


読了書覚書目録へ