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- ■桜姫
- 角川書店 2002/01/05 初版
- 本体価格 1700円(税別)
- 2002/02/26 記録
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「わたしはあなたが殺したとは思ってません」
十五年前、大物歌舞伎役者の跡取りとして有望視されていた少年、音也が亡くなった。
それ以後音也の妹、笙子は兄を絞め殺してしまう悪夢に悩まされ続ける。そんな彼女の
前に音也の親友だったという若手歌舞伎役者が現れ、音也の死に不審を漏らす。
今泉、小菊の歌舞伎ミステリィシリーズ。だが、今回はちょっと趣が変わっていて、もちろん
ミステリィではあるのだが、その主題が恋愛部分を照らしている。いわば恋愛ミステリィと
云ったところだろうか。
そのせいで本来主役である筈の今泉、小菊の存在が霞んでしまうかというとそうではない。
しっかりと要所要所に姿を顕し物語に絡んでくる。それも必要以上の存在感を見せずに。
それがとても巧い。
まずはミステリィ部分だが、これは結構アクロバティックで反則すれすれかもしれない。
ちょっとフェアとは云えないかも知れないが、まったく不自然な展開だとも云えないし、
寧ろ物語と綺麗にマッチしていて気にならないほどだ。
恋愛部分に関しては、どうも尻窄みになっているような気がしないでもない。もっとも
最期まで書ききってしまうと恋愛小説としては逆効果なのかも知れないし、こちらに
関しても不自然とは思えなかった。
とにかく、ミステリィパートと恋愛パートが巧くつかずはなれずをこなしていたので、書きたい
主題が小説から浮き上がってしまう事もなかった。とても切なく、心に響いてくる。
やはりこんなテーマで書かせたら、この作者の文章は特に似合うんだよな。静寂の中を
ゆっくりと手探りで歩いているような、この危うい感覚が。
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