魂魄堂 読了書覚書 - 藤木稟 -


■鬼を斬る
祥伝社文庫 2000/11/10 初版
本体価格 381円(税別)
2001/09/27 記録

「ひ・・・・・・人も鬼になるのですか?」

明治の初頭、ある山村で続けざまに神隠しが起こる。そして近所の子供たちが生首を 抱えた鬼を目撃したという。村の架橋工事の監査役として派遣された立花は、それらの 話に興味を持ってしまう。

タイトル通りの伝記作品。もともとの文体が文体だけに、こういったおどろおどろしい雰囲気が 巧く描写されている。ゲストキャラとして朱雀十五の曾祖父も登場してくるが、彼は物語の 中心には居ない。にも関わらず面白い話題を提供してくれて、この短いページでありながら 蘊蓄で愉しませてくれる。

読んでいる時は単純な話かと思われたが、後半になってそれまでの展開をひっくり返し 始める。うーん、と唸らされるだろう。作者の構成力には頭が下がる思いだ。それも伝奇小説 としての雰囲気を壊すことなく、本来のプロットをより膨らませるようになっている。

伏線、プロット、文体のどれをとっても良くできている。それを良くこのページ数に纏め上げた ものだ。かなり面白いぞ。


■テンダーワールド
講談社 2001/06/29 初版
本体価格 1900円(税別)
2002/01/25 記録

「相対性理論は分かるよね?」

近未来。「タブレット」と呼ばれるパーソナルネットワーク端末が生活の総てを支配する ようになっていた。そこに「エイリアン事件」なるものが発生する。それは剃髪して手術に より生殖器を切除した男女の屍体が連続して発見され、FBI捜査官が捜査に乗り出した。

『イツロベ』の続編と云うか姉妹編か。それも途中まで全然気が付かなかった。 まるで作風が違う上に、それらを繋ぐキーワードが少なかったから。余りその事を 前面に押し出しておらず、それぞれが独立した世界観を持ち、相互作用する事無く 完結している。

それに本作でキーワードに関する謎が解き明かされたわけじゃないので、また何らかの 形で話は続くのだろう。その結末を見届けるのもまた楽しみなのである。

さて本作品について言及すると、近未来の設定の割に、どうも肝心のテクノロジィの 描写が甘いというか、既存の技術をちょっと広げただけに留まってしまっているような 気がする。

問題は実際にSF的な発想が無い事ではなくて、それをあっさりと読者に解らせてしまう 底の浅さだろう。描写次第ではもっと重厚でリアリティのある世界を構築できただろう だけにそれが凄い残念でならない。

そしてそこで起きた事件や捜査などが、結局今現在、この時代で起きたとしても なんらおかしくない。それじゃあ近未来に舞台を設定した意味が無い。舞台設定が 派手な割に、物語の核がちょっと弱すぎた。

それに最期は流石に省略しすぎだろ。


■上海幻夜 七色の万華鏡編
トクマノベルス 2001/08/31 初版
本体価格 800円(税別)
2002/02/22 記録

「蠱毒?」

二十世紀初頭の上海。中国の麻薬組織や日本の軍関係者が入り乱れて、利益を奪い合う。 この時、朱雀十五はまだ5歳───

「朱雀十五シリーズ」ではあるが、ミステリィでは無い。いうなれば幻想譚に近い物語だろう。 この話自体がまだ中途で在るために、物語性の強い本編においてはまだ評価を下すまでには 到らない。それでも上海の怪しい雰囲気や時代性などがひしひしと伝わってくるあたり、作者の 筆力が並ではない事を証明しているだろう。

結論としての評価は、まだ先になる。


■陰陽師鬼一法眼 三之巻
カッパノベルス 2001/05/30 初版
本体価格 848円(税別)
2002/04/24 記録

「そーよ、何か文句があるの?」

シリーズ物で続きものなので梗概は割愛。どうやら今回はメインの話ではなく外伝的な 話になっているようだ。といってもメインの話が全く出てこないわけじゃないが、どちらかと 云うと伏線的な意味合いの方が強いかも。鬼一法眼も殆ど出てこないし。

メインは水鳴なのだが、うーん今回は切ないなあ。水鳴のキャラクタがアレだけに余計 物語の悲哀さが際だってくる。それでいてメインの話にもそれなりに絡んでくるし、そろそろ 本格的に盛り上がりそう。

でもやっぱり陰陽師だと夢枕獏書くところの『陰陽師』シリーズの影響は免れないのかな。 鬼一法眼と兵衛のやりとりなどを見ているとそう思えてしまう。そう考えると鬼一法眼の キャラクタも似ている部分が多いし、もう少しオリジナリティが欲しいかも。あ、見融は かなりイイな。

で、やっぱり読む間のタイムラグというか発売スパンが結構あるんだからやっぱり登場人物一覧 と相関図は必須だと思うな。


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