魂魄堂 読了書覚書 - 浅暮三文 -


■ダブ(エ)ストン街道
講談社 1998/08/25 初版
本体価格 1700円(税別)
2001/09/29 記録

「今、ポストが動かなかったか?」

夢遊病の癖を持つ恋人から届いた手紙には、彼女は謎の大地と呼ばれる 「ダブ(エ)ストン」に居るという。その手紙を見たケンは彼女を迎えに謎の大地 へと脚を踏み入れることに成功した。人が常に迷い、目的地に着くのも容易では 無い土地。そこでケンはアップルと云う名の郵便配達に出逢う。

ハードカバーだが第8回メフィスト賞なのである。本作は正統派のファンタジィで あり、今までの受賞作とは一線を画していると云えよう。装丁もなかなかで、 確かにノベルスで出版するよりは良かったのかも知れない。ただ、何故かちゃんと した宣伝を打たれていないのか、余り書店で見かける事もなかったし編集の 思惑とは違いセールス的には成功とは云えなかったのかもしれない。

序盤はこの世界の設定に慣れるのに戸惑うかも知れない。更に登場人物の 視点がいくつか切り替わってしまうのもそれに拍車を掛ける事になる。だが、 一旦この世界の住人になってしまうと、それはリアリティがある。と、これは どれだけファンタジィ世界をしっかりと構築しているか、の表れなのだが、 彼らの生活が目に浮かぶようになる。

キャラクタも一筋縄にはいかず、それでいて誰もが物語り上無駄であると いう事がない。ばらばらの視点で語られつつも、最期には総てのピースが ぱちり、とはまる。その時、眼前にダブエストン街道が姿を顕すのだ。

そして最期は物悲しくもあり、それでいてとても暖かい余韻を残す。ここまで 読み進むと、この世界から離れがたくなってくる。すっかり読者をダブエストンへ 導いてしまうのだ。

いつかまた、このダブエストンを訪問できる事を期待しよう。


■左眼を忘れた男
講談社ノベルス 2002/03/05 初版
本体価格 940円(税別)
2002/05/04 記録

「サトウ君・・・・・・」

気が付くと男はベッドの上に居た。指ひとつ動かせない状態に陥っているのにも関わらず 何故か外の風景が見える。廻りの声から判断すると、後頭部を強打されたせいで こうなったらしいのだが、その時に左眼が眼窩から飛び出してしまっているようだった。



かなり難しい。斬新な設定だけに、どんな展開になるのかまったく想像できなかったが、 中盤から後半にかけてはずっと脳内に「?」が浮かんでいた。序盤はまだいい。何が どうなっているかは解らないにしろ、左眼が単独で行動し、ベッドの男に意味ありげな 風景を伝えているという展開だったから。

そしてベッドの男が知りたかった事、即ち誰が何のために自分を襲ったのか。その犯人 の存在が浮き彫りになる頃から物語は混迷し始める。うっかりミステリィだと思って 読んでしまったけど、裏表紙には「前代未聞のエンターテインメント!」とあるし、 作者自身も明確なミステリィとしては書いていなかったようだ。

確信的なのだろうけど、場面が転換しても誰の視点になっているのか解りにくく、 そしてベッドの男には会話情報だとかが一切入ってこない為に、読者としても 今どういう状況なのかがさっぱり解らない。

最期まで読み通しても、結局一連の出来事はなんだったのか明確にされない どころか、最期まで誰が誰だったのかが解らなかった。




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